金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」番外編
Ovall、Kan Sano、Michael Kaneko…『origami SAI』に見た、独立した音楽家たちが刺激し合う“コレクティブ”としてのあり方
トリ前の出演となったKan Sanoは、エンタメ精神あふれるステージを展開。「Baby On The Moon」では鍵盤によるインプロビゼーションからトランペットを吹き、「Sit At The Piano」ではベースを演奏、ドラムソロを挟んで、マーヴィン・ゲイの「What’s Going On」をオリジナルなアレンジで披露、さらに「DT pt.2」ではダンサーと一緒にプレイするなど、音源の繊細なイメージをいい意味で裏切るアグレッシブさが非常に魅力的だ。
ベースはMimeの森川祐樹が務め、Kan SanoがBLU-SWINGのYusuke Nakamura、SANABAGUN.の澤村一平らと結成したLast ElectroにもMimeからギターの内野隼が参加、ドラムは無礼メンの菅野颯で、来年3月に開催されるKan Sano主催のイベント『counterpoint』で共演が決まっているTENDREには、同じく無礼メンのベース・高木祥太が参加。Mimeと無礼メンは、バンドと個人それぞれに注目である。
イベントの大トリを務めたのはもちろんOvall。2017年12月の再始動以降もそれぞれの活動を続け、Shingo SuzukiはKan Sanoらとともに七尾旅人をサポートし、関口シンゴは前述の通りあいみょんのサウンドプロデュースを手掛け、mabanuaに続いて『関ジャム』にも出演。mabanuaもおかもとえみ、川本真琴、DEAN FUJIOKAと様々なアーティストの作品に参加しているが、12月に待望の新作『Ovall』のリリースを控え、この日はバンドとしての現在地を感じられる絶好の機会となった。
再始動後の新たなOvallを提示した「Stargazer」や、ネオソウル風の「Slow Motion Town」といった新曲に、「Take U To Somewhere」のような過去の人気曲も交えたセットリストは、Ovallの多面性を伝えるもの。そして、ラストにファンキーな「Green Glass」と、アフロな「La Flamme」でバンドの原点であるセッションカルチャーの熱気を今に鳴らすことによって、まさに過去と現在を繋ぐようなライブになっていたと言える。
アンコールにはHiro-a-keyもMCとして登場し、この日の出演者が勢揃いして、「I Only Want You」を全員でセッション。この曲はかつてShingo Suzukiやmabanuaらが参加したセッションベースのマンスリー企画『laidbook 01』に収録されていた楽曲だ。一個人として独立した音楽家たちが、音で会話することによって緩やかに繋がって、お互いを刺激し合い、支え合う。それはまさに、origami PRODUCTIONSというレーベル/マネジメントのあり方を示す光景であった。
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。