金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」番外編
Ovall、Kan Sano、Michael Kaneko…『origami SAI』に見た、独立した音楽家たちが刺激し合う“コレクティブ”としてのあり方
そもそも「サポート」をテーマとした連載を始めるきっかけになったのが、2017年のOvall再始動だったと言っても過言ではない。2010年に新たなセッションカルチャーの盛り上がりを伝えた1stアルバム『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』、2013年にはよりジャンルレスに、ポップミュージックへと接近した2ndアルバム『DAWN』を発表するも、その後に活動を休止。しかし、Shingo Suzuki、関口シンゴ、mabanuaの3人はそれぞれがサポート/プロデューサーとして数多くのアーティストを支え、「ブラックミュージック」がキーワードになった2010年代後半の日本において、再始動が待望視されることとなった。
これは「優れた音楽家がアーティスト活動と裏方を交互に行き来することで、音楽の歴史は作られてきた」という事実を改めて示すとともに、ネット/SNSの時代になって、それがよりボーダーレスに、よりダイナミックに、より「個人」を主体とした形へと変化して行ったことを示していた。Ovallの所属するorigami PRODUCTIONSのアーティストが一堂に会し、11月1日に渋谷クラブクアトロで開催された『origami SAI』は、そんな時代感を証明し、コレクティブとしてのレーベル/マネジメントのあり方を印象付ける一夜となった。
イベントのトップバッターを務めたのは、レーベルの新時代を象徴するNenashi。シンガー、ラッパー、プロデューサー、トラックメイカーとマルチに才能を発揮し、これまで正式に発表されたのはまだ「Lost in Translation」と「Satellite Lovers」の2曲のみながら、そのクオリティの高さが話題の新人であり、彼にとってはこの日が初ライブ。
ステージ前面には紗幕が張られ、そこにビジュアルを投影しながらのライブは、スタイル的にamazarashi、サウンドとの同期はコーネリアスを連想させるもの。スーパーローの出た、音数の少ないトラックの上で、美しい歌声を聴かせるライブはまさに「今」を体現していて、前述の2曲に加え、新曲とドレイク「Passionfruit」のカバーも披露(この曲はコーネリアスもカバーしていた)。紗幕に加えて、MCも機械がしゃべるなど、「噂の新人の全貌が露わに」というよりは、その正体がますます気になるステージだったと言える。
イベント中盤では、Michael Kanekoとmabanuaがそれぞれフルバンドで登場。Michael Kanekoはソウルフルな歌声や自らのギターソロで場内を沸かせ、mabanuaはインディロック的な側面も持った独自のスタイルでオーディエンスを魅了した。サポート的な観点で言えば、Michael Kanekoのリズム隊は、関口シンゴがサウンドプロデュースを手掛けるあいみょんのレコーディングにも参加しているベースの多田尚人とドラムの御木惇史に、キーボードはMimeの近藤邦彦。mabanuaのサポートはShingo Suzukiと関口シンゴにキーボードの村岡夏彦というOvallメンバーに加え、ドラムは円人図のメンバーで、Kan Sanoともプレイする今村慎太郎。やはり、それぞれが単なるサポートとしてではなく、一ミュージシャンとしてそこに立っているように感じられた。