illion「GASSHOW」なぜ今チャート浮上? “新たな意味”が加わり、ネット上でリバイバルヒット

illion UBU
illion『UBU』

 今年の日本映画界を代表する作品といえば、新海誠監督による『天気の子』。音楽は前作『君の名は。』同様RADWIMPSが手掛け、「愛にできることはまだあるかい」はサブスクリプションサービス未解禁ながらビルボードジャパンソングスチャートで最高3位、通算5週に渡りトップ10入りしました。そのRADWIMPSのボーカルを務める野田洋次郎のソロプロジェクト、illionの楽曲が現在注目を集めています。Spotifyの日本のバイラルソングスチャートで最近、「GASSHOW」がトップ10入りし続けているのです。SNSでシェアされた回数に基づくバイラルソングスチャートで、2013年にリリースされたアルバム『UBU』に収録されたこの曲がなぜ今人気を拡げているのでしょう。

illion GASSHOW @O2 Shepherd's Bush Empire, London, UK

 元来「GASSHOW」は、というよりillionそのものが、東日本大震災がきっかけになって生まれたもの。「(東北の)震災という出来事で感じたあのもどかしさ、眠れなさ、あの心臓のバクバク、失われたたくさんのもの、やがて忘れてしまうだろうあの瞬間を、どうしたらいいかわからなくて、ひたすらスタジオに入って曲に閉じ込めたのが、illionです」と野田はライブのMCで語っています(参照:rockinon.com)。古文的な表現も用いている歌詞からは、あの瞬間を忘れてはならないという強い想いが伝わってきます。

 「GASSHOW」、そしてillion自体にそのような背景があるため、「GASSHOW」の現在のヒットは最近連続する自然災害の被災者に向けての鎮魂の意を込めて聴いた人の多さゆえではと考えたものの、ならば今年に限らずここ数年頻発している未曾有の災害発生の度に話題になるはず。あらためてこの曲の人気の秘密を探っていくと、既存のアニメ等を個人が編集し再構成したMAD動画にたどり着きました。それがアニメ『鬼滅の刃』を使ったもの。週刊少年ジャンプにて2016年から連載中の吾峠呼世晴による『鬼滅の刃』は、単行本の累計発行部数が1200万部を突破した人気作品。今年の春からは半年間テレビアニメ化され、来年には映画『鬼滅の刃 無限列車編』が公開されます。映画の情報解禁時にはTwitterでトレンド入りするほどの人気であるこのアニメを用いたMAD動画が6月にYouTubeで公開されたところ、現在までに75万を超える再生回数を記録しているのです。そしてそこで使われているのがillion「GASSHOW」であり、動画にもクレジットされています(参照:YouTube)。

 MAD動画の制作者は、「GASSHOW」が東日本大震災を描いた曲であることを理解した上で同曲を使用したとのこと。「鬼は津波と考えて作りました 炭治郎達のように鬼に立ち向かい、諦めずに生きる姿に感動したので作らせていただきました」とコメント欄に記載し、「あの震災があったということを忘れないでほしいです」と結んでいます。『鬼滅の刃』の舞台は大正時代であり東日本大震災をモチーフにしてはいませんが、MAD動画の制作者の想いは野田洋次郎のそれと重なるのです。

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