ビリー・アイリッシュは、なぜカート・コバーンを彷彿とさせるのか 両者に共通する社会への視点
「ビリー・アイリッシュの公演では、1991年のニルヴァーナと同じことが起こっていた」
Foo Fightersのボーカル兼ギター、デイヴ・グロールのこの言葉は話題を博した。デイヴはあのNirvanaでドラマーを務めていた人物だ。つまり、2001年生まれのシンガー、ビリー・アイリッシュは、伝説的グランジロックバンドの一員から“お墨つき”をもらったこととなる。これにはファンである彼女も喜んだようだ。さて、本人の投稿によると、デイヴの一節には続きがある。
「彼女の音楽をなんて呼べばいいのかわからないけど、すごくオーセンティックだ。俺はロックンロールと呼びたい」
デイヴのコメント通り、ビリー・アイリッシュは「ジャンル殺しのZ世代」代表格とされるミュージシャンだ。21世紀生まれとして初のBillboard HOT100首位を獲得し、ファッションアイコンとしても名高いのだから、一応ポップスターということになるだろうが、悲愴で憂鬱な楽曲自体はジャンル越境的で既存のラベルにおさまらない。しかしながら、アメリカの評論でもっとも注目される要素はヒップホップだろう。ヒップホップがナンバーワンジャンルとなった2010年代、アリアナ・グランデなどの既存ポップスターはラップ要素を強めるサウンド変化を遂げた。対して、ビリーはデビューアルバムの時から「ヒップホップを大前提とするサウンド」を武器とする新しい存在、というわけだ(参照)。元々SoundCloud等でキャリアを成長させていったビリーは、若手ラッパーとの距離も近い。「ラップしないSoundCloudラッパー」と呼ばれるくらいだ。というか、ビリー・アイリッシュは、2010年代に繁栄したSoundCloudラップをうまくポップ化してみせたポップスターと見ることもできる。