金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」
くるりというバンドの特異な魅力 サポートミュージシャン野崎泰弘(Key)&松本大樹(Gt)が語る
「僕の中でクリフはメジャーリーガーでしかない」
ーーではシンプルに、「ライブでやってて楽しい曲」というと?
松本:僕は「上海蟹(琥珀色の街、上海蟹の朝)」ですね。どちらかというと、茶々を入れる役割なので、全員の演奏が聴けて、特にあの曲はベースと鍵盤の曲やと思うんで、それを聴くのが楽しいです。『列島Zeppェリン』はドラマーがクリフだったので、「Tokyo OP」のドラミングとかすごくて、それも楽しかったです。
野崎:たまに「コーラス歌ってくれ」って曲があって、僕歌うの好きだから、それは楽しいです(笑)。メンバー3人でハーモニーできるから、なかなか出番はないんですが、「ロックンロール」や「上海蟹」のサビとかでは歌わせてもらってて、単純に楽しい。
ーー二人がくるりに参加するようになってから、ドラマーはクリフさんの機会が多かったと思うんですが、くるりにおける彼の存在についてはどのように感じていますか?
松本:僕の中ではメジャーリーガーでしかないので、くるりにとっても同じやと思うんですよね。他の方だと、それぞれが1ピースとして1曲やる感じが、クリフになった途端、彼の背中におんぶしてもらってる感覚というか(笑)。実際はそうじゃないかもしれないんですけど、気分としてはそんな感じです。ツアーはイヤモニでずっとやってたんですが、この前スタジオシンポの10周年イベント(『シンポシンポジウム』)でライブハウス磔磔に出たときに転がしでやって、久しぶりにクリフの生音を聴いたら、もうすごかったですね(笑)。
野崎:当たり前ですが、ドラマーが変わると、最初は演奏が無意識にドラマー寄りになるんですよね。特にクリフの場合は、黒船到来じゃないですけど(笑)、みんながそこに乗っかって楽しんでる感じが伝わってきます。性格もあるのか、かなり自由に叩いてますね。
松本:自由に叩きながらも、こっちのちょっとした演奏にちゃんと反応してくれるんですよ。この前のツアーでやっとそれに気づけて、うれしかったです。対応能力というか、遊び心というか、流石やなって。
ーーそこはジャズがバックグラウンドにあるのも大きいでしょうね。
松本:そうですね。今度のツアー(『列島ウォ~リャ~Z』)で叩く石若(駿)くんもそうですが、ジャズがバックグラウンドにあるドラマーはくるりに合うんじゃないかなって。反応を大事にするバンドやと思うんですよ。同じ曲でも毎回アレンジがちょっとずつ変わるのは、反応で変化していってるからで、そこは僕も大事にしたいです。
ーーでは最後に、二人が個人として今後やっていきたいことについて教えてください。
松本:まず第一に“ギタープレイヤーである”ということが大きいので、どんな現場でも、納得のいく演奏をしたいというのが一番ですね。あとは、新人アーティストのアレンジやバックバンドとかもやらせていただいているので、そっちでもいろんなことがやれたらなって。もともと前にやってたバンドでも基本的に僕が曲を作って、アレンジもやっていたので、、それがなくなっちゃうのは寂しいというか。アレンジの仕事を通して、今後の自分に役立つことも得られていると思うので、続けて行きたいですね。
ーー近年だと、ゆるめるモ!のサポートなどもしていますよね。
松本:若い子はまだ知らないことも多いから、コードから教えたりするんですが、教えるのはあんまり得意じゃないんですよ。岸田さんみたいに教員なんて絶対できない(笑)。でも、そういう機会が増えることで、自分が教えられることもあって。その気付きが、この1~2年であったんですよね。これから出てくる子たちにも貢献できたらいいなって思っています。……おっさんになったってことかもしれないけど(笑)。
野崎:僕は性格的に必要以上に目立つのは嫌なんですよ。サポートキーボーディストがすごく合ってると思うので、一見わからないけど、でもいなくなったら寂しいと思われるような、そういうプレイヤーになりたいです。「いるのかいないのかわからない」だと寂しいですが、目立たなくても、「いないと喪失感デカい」みたいな(笑)。あとは、どれだけ自分のことをいいと言ってくれるミュージシャンの方に出会えるかどうかだと思っています。“自分から求めて”というよりも、ちょっとした運や縁で出会い、いいと言ってくれた方たちのおかげで、今があると感じているので、この先もそうやっていけたらなって思いますね。
(取材・文=金子厚武/写真=池村隆司)