くるりの傑作『THE PIER』はいかにして誕生したか?「曲そのものが自分たちを引っ張っていってくれる」

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 くるりが、約2年ぶりとなるアルバム『THE PIER』を9月17日にリリースする。先行公開された収録曲「Liberty&Gravity」でも予感させたように、本作には時代や地域を超えた多様な音楽的エッセンスが散りばめられ、これまでにない手触りのポップミュージックを聴くことができる。今回リアルサウンドではインタビュアーに宇野維正氏を迎え、くるりの岸田繁(Vo、Gu)、佐藤征史(Ba、Vo)、ファンファン(Tr、Key、Vo)にインタビューを実施。制作時のエピソードから、新作の“新発明”とも呼ぶべき音楽性、さらには現在の音楽カルチャー全般まで、じっくりと語ってもらった。(編集部)

「『もうええ曲はいらんやろ』っていう話になって」(佐藤)

――7月前半に最初に完成したアルバムを聴かせてもらったので、実はもう2ヶ月近く愛聴していることになるんですけど、取材の前にそのくらい時間があってよかったなって。よくあるように、取材の数日前にこのアルバムをポンと渡されていたら、全然消化しきれなかったんじゃないかと。

岸田繁・佐藤征史・ファンファン:(笑)。

――今回の『THE PIER』というアルバムは、そのくらい、あらゆる角度から語り甲斐がある作品なんですけど、まず、アルバムとしての全体像はどのくらいの段階から見えていたのかなと。この中で最初に世に出た曲はNHKの番組のテーマソングとなった「Remember me」で、そこから数えると1年半以上、その後も「ロックンロール・ハネムーン」「loveless」「最後のメリークリスマス」といった曲がいろんなかたちで世に出て。その時点では、まさかこんな作品になるとは想像できませんでした。

岸田:それは僕らもそうですよ。全体像が見えたのはマスタリングの時(笑)。ただ、「Liberty&Gravity」だとか「日本海」だとか、アルバムのカラーが決まるような感じの曲を録った時点で、なんとなくは見えてきてましたね。

佐藤:もともと、シングルとかタイアップの曲を録っていた時はアルバムを見据えてやっていたわけじゃないですからね。それで、アルバムを作ろうって段階になって「もうええ曲はいらんやろ」っていう話になって(笑)。

――「ええ曲は十分ある」と(笑)。

佐藤 そう(笑)。それで「後は単純に楽しみながら曲を作っていけばいいんじゃない?」って、今年の頭くらいからレコーディングに入ったんですけど。ただね、やってみると、とことんやっちゃうんですよ、このバンドは(笑)。「まぁええか」ってことがないんですよね。

岸田:今回良かったのは、純粋なアルバムの制作期間はこれまでのアルバムとそんなに変わらないんですけど、いわゆる「いい曲」が最初に4曲くらいあったことで、ちょっと気持ちに余裕があったんですね。これまでアルバムによっては「いい曲を作らないと」ってところから始まることもあったけど、今回は3番バッターと4番バッターと5番バッターはいるから、あとは2番とか7番で打線を組んでいけばいいと。でも、ただそれだけじゃつまらないから、いざとなったら4番も打てる足の速いヤツとか、コイツは戦力としては使えないけどいるだけでチームの雰囲気が明るくなるヤツとか、そういうのもアルバムに入れていく余裕があったんです。

――結果的に、2番も7番もバカスカ打ってますけどね(笑)。

岸田:(笑)。

――ファンファンさんはくるりに加入してから、これがアルバムとしては2枚目になるわけですけど、今回初めての驚きのようなものはありましたか?

ファンファン:アルバムの前にリリースしていた曲がパズルのピースになって、最初はその周りを新しい曲で埋めていくのかなって思っていたんですけど、「あれをやってみよう、これをやってみよう」ってやっていったら、出来上がったパズルは全然四角形じゃなかった(笑)。

――今回の『THE PIER』では、ファンファンさんの存在感、バンドにおける役割がとても効果的になってきたように思います。

ファンファン:今までは「こういうふうにしよう」とか「演奏のこういう部分で頑張ろう」とか、音を鳴らす時にいろいろな邪念のようなものがあったんですけど、ライブで集中している時とかには、そういうことをまったく考えない、無意識になるような瞬間があって。そのことに途中で「あっ」って気づくんですよ。だんだん、そういう瞬間が増えてきたような気がします。

岸田:バンドのスタイルが独特だから、分担はでかくなる、単純にそういうことだと思います(笑)。もともと、管楽器が欲しかったから彼女に入ってもらったというより、たまたま彼女が管楽器を吹いていたっていう感じに近いから。いわゆるロックバンドにおけるブラスっぽい使い方をしてる曲って「Liberty&Gravity」のサビのところくらいで、他では弦楽器がやるようなことをやってたり、ボーカルとは違う旋律を吹いてたりとか、普通の管楽器とは全然違う、本来はやったらあかんようなこともしてる。だから、いわゆる管がいるバンドの考え方とは全然違うんですよ。全部の曲に管はいらないけど、せっかくメンバーだし、吹けるきっかけがあったら吹いてもいいよっていうのでアレンジしていくと、逆におもしろい使い方が見えてくる。それが、地味に新しかったりするんですよね。

――岸田くんが日記に書いてたのかな? 今作のエピソードで驚いたのは、あの複雑な展開だらけの「Liberty&Gravity」を、ウィーンのホテルの部屋でギター一本で書いたっていうことなんですけど。

岸田:全裸でね(笑)。

――えっ? パンツも履いてなかったの?

岸田:よくある(笑)。AメロとBメロくらいまではなんとなく原型はあったんですけど、一度その存在すら忘れてたんですよ。で、ふと続き作ってみようって、アコギで弾き語りで歌いながら歌詞を書いていって。あの夜はなかなかすごかった。

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