山下達郎や細野晴臣らが海外で注目を集める背景 サンプリング方法から見えるメロディへの着眼

 前置きというには長くなってしまった。以上のような前提にたって、2019年になって山下達郎や細野晴臣に集まる注目の理由をその楽曲から考えてみると、メロディの魅力を保ったポップミュージックであることが重要なのではないか。

 Tyler, the Creatorは『Flower Boy』から『IGOR』にかけてハーモニーやメロディを重視した楽曲に重心を移しており、山下達郎をサンプリングしたのもその流れを反映したものに思える。ダンサブルなドラムブレイクやカッティングギターではなく、ボーカルがフィーチャーされたのはその証拠だろう。もっとヒップホップ然としたプロデューサーやFuture Funkのプロデューサーが、ダンスミュージックとしての山下達郎に着目するのとは対照的だ。

 一方のVampire Weekendも、「2021」ではシンプルなメロディのゆったりとした反復に、ボーカルやギターでメロディを重ねていく手法をとっているのが興味深い。『Father of the Bride』全体を通じて、ループ構造のうえで展開するリフとボーカルの絡み合いが印象的なことも示唆的だ。

 直接の参照はないとはいえ、この並びにMac DeMarcoの『Here Comes the Cowboy』を加えてもいいだろう。時間感覚が弛緩したグルーヴのうえで、うっすらと輪郭を描きながら紡がれていくメロディには、『HOSONO HOUSE』のフォーキーな、あるいはアメリカーナ的な感覚がゆるやかに重なる。ただしより時代に即した、チルな手触りを加えて。

 シティポップや環境音楽というと、アナログ録音やデジタルシンセなど、時代の痕跡を色濃く残すサウンドのテクスチャーに気を取られがちだ。しかし、実際にサンプリングや引用をした楽曲での使われ方を見ると、決してサウンドへのフェティシズムだけが要因というわけではないように思う。メロディへと回帰する際のひとつの参照点として、山下達郎や細野晴臣への関心があるのではないだろうか。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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