山下達郎「REBORN」は新たな代表曲に? “心に染みる理由”をサウンドと歌詞から分析

 山下達郎の、通算50枚目となるシングル『REBORN』がリリースされた。

 これは、映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の主題歌として制作されたもの。この映画の原作は、東野圭吾が2012年に発表し「東野作品史上、最も泣ける感動ミステリー」として、世界累計900万部を超える大ベストセラーとなった同名小説である。

山下達郎『REBORN』

 山下が書き下ろした表題曲「REBORN」は、悩めるミュージシャン志望の若者・克郎(林遣都)から、カリスマシンガーソングライター・セリ(門脇麦)へと歌い継がれることで、劇中強烈なインパクトを残す楽曲。東野の原作の中では「再生」というタイトルがつけられた劇中曲を、映画の中で具現化し、さらにエンドロールでは山下自身も歌うという、「虚実ないまぜの世界」が求められ、「どの場面にも違和感のない曲調を実現するため、かなりの模索と推敲を要し」たと、山下本人もコメントを残している。なお、カップリングには門脇麦のボーカルバージョンを収録。アレンジもキーも、山下バージョンとは全く違うものになった。

 山下が歌う「REBORN」は、幻想的なパッドシンセの音に導かれ、ローランドTR-808を彷彿とさせるキックとハイハット、そしてシェイカー(?)という極々シンプルな組み合わせのリズムパターンが刻まれる。キーはDmで、Aメロのコード進行は、<Gm7 - Dm - Gm7 - Dm - Gm7 - Am7/Dm - Gm7/Am7 - Dm /Am7>、 Bメロは<Dm /Am7 - Gm7 - Am7/Dm - Gm7 - Gm7onC - Gm7onC>と、使われているのはほとんどがマイナーコードだが、7thのテンションノートやサビ前の<Gm7onC>という分数コードがアクセントとなり、全体的に何とも言えない浮遊感を与えている。

 サビになるとスネアがインし、エレキギターの控えめなカッティングと、エレピによるカウンターリフが重なり、AメロBメロに比べると山下のボーカルも若干盛り上がる。が、それでも抑制を効かせたトーンを保ったまま。コード進行は、<B♭- B♭- Dm - Dm>を2回繰り返した後、<Gm7 - Am7/Dm - Gm7/Am7  - Dm - Dm>と、再びAメロBメロのバリエーションに戻っていく。

 その後、Aメロ→Bメロ→サビを繰り返した後、展開メロへ。コード進行はサビと一緒だが、エレピが弾いていたカウンターリフを元にしたメロディを歌っている。ここが最も抑揚のあるメロディラインで、女性コーラスとユニゾンしながらリフレインすることにより、聴き手の心を高揚させる。最後にサビを2回繰り返した後、後奏へ。ここで満を持して“泣き”のギターソロが登場し、女性コーラスと絡み合いながらようやくカタルシスを迎え、徐々にフェードアウトしていく。

 これ見よがしなギミックや派手な転調・展開などもなく、楽器編成も非常にシンプルで音数も少ない。精緻に計算された美しいメロディ含め、一聴すると、いわゆる「シングル向け」とは言えない地味な楽曲に感じるかもしれない。が、何度も繰り返し聴いていると、心のひだに染み渡っていくような味わい深さがある。それはおそらく、この曲の歌詞に鍵があるのではないだろうか。

 山下自身がテーマを「死生観」としているように、楽曲全体を貫いているのは「生と死」という根源的なテーマだ。<生きることを教えてくれた あなたを忘れないよ>、<あなたはいつだって 私のそばにいる>、<触れることは もう叶わない でもいつも感じてる>と歌われる歌詞には、すでに死別した大切な人への思いが綴られているのは間違いないだろう。さすれば、靄がかったようなパッドシンセを中心に据えたサウンドスケープは、生と死の狭間にある世界を表しているのかもしれない。

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