YUKI「Sunday Girl」時代を越えたポップスに アナログ化を機に考える細野晴臣楽曲とのつながり

YUKI、細野晴臣コラボ曲の魅力を考察

 YUKIが今年2月にリリースした最新アルバム『forme』。吉澤嘉代子、西寺郷太(NONA REEVES)、堀込泰行、前野健太、津野米咲(赤い公園)、川本真琴、尾崎世界観(クリープハイプ)、Charaという世代とジャンルを超えた作家陣が参加した本作から、細野晴臣が作曲を手がけた「Sunday Girl」が7インチアナログEPとしてリカットされる。オーガニックな手触りのサウンドメイク、穏やかで優しいメロディライン、ここではないどこかへとつながるような歌詞がひとつになったこの曲は、意義深いコラボレーションが繰り広げられたアルバム『forme』を象徴する楽曲の一つであると同時に、時代を超えた魅力を感じさせる普遍的なポップソングとして成立している。

 サウンドの基調は、70年代初期の雰囲気。もっと明確に言えば、はっぴいえんどの名盤『風街ろまん』(1971年)に収められた「風をあつめて」「夏なんです」あたりのムードを色濃く反映している。この時期にはっぴいえんどを想起させる“新曲”が聴けたことは、細野ファンにとっても嬉しい出来事だったはず。図らずも細野は1stソロアルバム『HOSONO HOUSE』(1973年)のリメイクアルバム『HOCHONO HOUSE』を発表したばかり。そのレコーディング中に制作されたという「Sunday Girl」もまた、自らの初期の作品を再解釈・再構築した楽曲と言えるかもしれない。

 加えて「Sunday Girl」は、作家としての細野晴臣の再発見にもつながるはず。「赤道小町ドキッ」(山下久美子)、「紐育物語」(森進一)、「禁区」(中森明菜)、「天国のキッス」(松田聖子)など、80年代を中心に細野は、数多くのシンガーに楽曲を提供してきた。提供曲に関しては、歌い手のキャラクターや声質を活かしてきたはずだが、YUKIのために制作された「Sunday Girl」は少し趣が違う。メロディ、コードワーク、アレンジを含めて、細野自身のソロ楽曲とシームレスにつながっているのだ。おそらくこの曲は、セルフカバーしても十分に魅力的なトラックになるだろう(というか、ぜひやってほしい)。

 レコーディングメンバーは、伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)、高田漣(Electric Gt)、野村卓史(KeyWurlitzer)といった現在の細野バンドのメンバー。細野はアコースティックギターとバックコーラスを担当、サウンドプロデュースも手がけている。自然な揺れを感じさせるバンドグルーヴとともに高田のアーシーなギターソロ、野村の穏やかなウーリッツァーが響き渡るアンサンブルは、まさに絶品。今回のアナログシングルのB面にはインストバージョンが収められているので、演奏もじっくりと味わってほしい。

 そして「Sunday Girl」の歌詞を手がけているのはもちろん、歌を歌うYUKI本人。この曲は旅に出たYUKIが書いた日記をもとに細野がメロディを付けたところから始まっており、YUKIの体験が楽曲の通奏低音になっている。YUKI自身のイマジネーションと細野へのリスペクトが重なっている言葉もきわめて魅力的だ。たとえば〈飲茶  ひとり食べてたら/いつの間にか  ほら こんな場所〉に象徴される“日常のトリップ感”と称すべき感覚はトロピカル3部作(『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』『はらいそ』によるエキゾチカ3部作)の音楽観とつながっているし、〈なぜ僕らは忘れてしまう/お別れはいつも突然だと/ああ 優しくしたいだけなのさ〉という切ないダンディズムもまた、細野の歌の世界と結びついている。ひとつひとつの言葉にナチュラルな情感を込めたボーカルも新鮮。中低域を活かしたメロディラインはまさに細野節だが、あえて声を張らず、芳醇な響きをたっぷり味わえる「Sunday Girl」の歌声は、シンガー・YUKIの新たな表情を伝えている。

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