まふまふ、“音楽作家”としても活躍 マルチな才能とボカロシーン由来の独自性を紐解く
シンガーとしてのまふまふの特徴といえば、なんといっても、歌い方によっては女性にも聞こえるようなハイトーンボイスだろう。たとえば、DAOKO×米津玄師の「打上花火」のカバーでは、歌い出しから「女性!?」と驚くような高音パートとなっている。もともと、ボカロソングは通常の人間が歌うキーよりもかなり高いキーが使われていることが多い。それもあって、ボカロ曲のセルフカバー「ハローディストピア」のサビなどでは、一体どこから声が出ているのだろうと不思議になるほどの高音を披露している。
さらに、こうした他アーティストやボカロのカバー曲でも、完コピというよりは彼なりのアレンジが利かせてある点も指摘したい。先の「打上花火」でも、原曲とは異なるアコギとピアノ演奏によるアコースティックアレンジを披露。そのため、単なるカバーの域を超え、まふまふの“表現者”としての一面が垣間見える仕上がりとなっているのだ。
カバーにも彼なりの美学をうかがえるのだから、オリジナル曲はなおさらだ。まふまふは様々な引き出しを持っているが、その中でも特に目立つのは、死生観を描いた曲だろう。歌詞には、度々「死」や「病」、現実逃避的な「妄想」に関連したワードが登場する。そうしたネガティブかつ重たいテーマを歌いながらも、サウンドはアップテンポであったり、しっかりとキメが作られているため、非常にキャッチーだ。また、ハイキーやうねるような音階、和テイストの楽曲、まくしたてるような早口なども、ボカロシーンに出自を置くまふまふならではのアプローチだろう。
そんなまふまふだが、自身が主催するフェス『ひきこもりたちでもフェスがしたい!』というタイトルからもわかる通り、元来はかなりの引きこもり属性。人前に出ることが苦手で、これほど人気があるというのに、比較的最近までライブに出演することですら抵抗があったという。また、ニコニコ動画やYouTubeなど、ネットでの音楽投稿で人気を得てすぐにデビューするようなアーティストも少なくないなか(むしろ、今ではデビュー目的でネットを使用しているアーティストの方が多いくらいだろう)、まふまふは絶大な支持を得てもなお、事務所に属さずにフリーを貫き、独自路線をひた走っている。そういった一貫した姿勢も、ファンの心を掴む要因となっているのではないだろうか。
昨年、さいたまスーパーアリーナで開催された『ひきフェス』が、今年は規模を拡大した幕張メッセにて、11月3日、4日の2Daysにて開催される。すでにネットの枠組みを飛び越えた活動を見せるまふまふだが、今後さらに、音楽界に独自のシーンを拡大していくに違いない。
■まにょ
ライター(元ミュージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。Twitter