10代がハマるAfter the Rainはネット時代のスター 大ヒット中の2nd ALから考える人気の秘訣
After the Rainの2ndアルバム『イザナワレトラベラー』が初週売上8万枚超えを記録し、9月17日付のオリコン週間アルバムランキングで2位を獲得した。
After the Rainは、ネットミュージックシーンで活動するシンガー/クリエイターのそらるとまふまふによる2人組ユニット。全曲の作詞・作曲・編曲を手がけているまふまふは、昨年10月にリリースしたソロアルバム『明日色ワールドエンド』がオリコン週間2位を獲得。今年3月に行われた幕張メッセイベントホールのライブも2日間で3万人を動員した。さらに、工藤静香、風男塾、あんさんぶるスターズ!など、ジャンルを問わずあらゆるアーティストへの楽曲提供を行っている。一方、ボーカルのほかにミックスやマスタリングを手がけているそらるは、今年7月にソロ活動10周年を迎え、10月クールのTVアニメ『ゴブリンスレイヤー』(TOKYO MX、Netflixほか)のエンディングテーマを担当することが決定。両者ともにソロ活動でも順調な動きを見せている。
そんな二人のユニット活動がスタートしたのは2014年。当時からすでにネットシーンで多くの支持を得ていたそらるとまふまふのコラボレーションはたちまち大きな注目を集め、2016年よりAfter the Rainとしての活動を本格始動。同年4月に発売された1stアルバム『クロクレストストーリー』は初週売上3.6万枚を記録し、オリコン週間アルバムランキングで2位を獲得。同年7月に開催した両国国技館公演には、初のワンマンライブにもかかわらず1万2千人のファンが詰めかけた。
筆者も当時、彼らの噂を聞きつけ両国国技館公演に足を運んだ。会場は中高生くらいの若いファンで埋め尽くされ、彼らの一挙手一投足に耳が痛くなるほどの歓声が沸き、アイドルのライブとも、バンドのライブとも異なる、ただならぬ熱気に包まれていた。彼らの活動は動画配信とSNSが中心だが、ふだんネット上では姿を見ることができないため、二人が歌う姿を目の前に興奮がおさえられないのもわかる。しかし、1万人以上のファンがまだテレビからもラジオからも聞こえていなかった音楽の数々をシンガロングしている光景を目の当たりにして、新時代の訪れを感じたことが記憶に残っている。
翌2017年には初シングル『アンチクロックワイズ』(TVアニメ『クロックワーク・プラネット』エンディング)、『解読不能』(TVアニメ『アトム ザ・ビギニング』オープニング)を2枚同時リリースし、オリコン週間シングルランキングで3・4位のダブルランクイン。同年8月日本武道館でのライブは2日間で2万6千人、今年2018年8月のさいたまスーパーアリーナでのライブは2日間で3万6千人と、セールスにあわせて公演動員も右肩上がりの流れの中での待望のリリースとなったのが、今回の2ndアルバム『イザナワレトラベラー』である。
本作には、昨年リリースのアニメタイアップ曲2曲、TBS系『ひるおび!』8月度エンディングテーマ「マリンスノーの花束を」、ファンの間ではすでに広く知られている「四季折々に揺蕩いて」などの既存曲に書き下ろしの新曲を加えた全16曲を収録。After the Rain流のダンスミュージック「妖のマーチ」や懐かしさと新しさが融合した歌謡曲調の「ドロボウ見聞録」などのオリジナリティ溢れる楽曲から、「マリンスノーの花束を」や「彷徨う僕らの世界紀行」、「箱庭鏡」(歌:そらる)、「快晴のバスに乗る」(歌:まふまふ)といったキャッチーで切なさのあるミディアム~バラードまで、まふまふのクリエイターとしてのセンスが存分に発揮されている。彼らの音楽にまだふれたことのないリスナーもきっと楽しめる普遍的なポップソングが並んだアルバムだ。デジタルサウンドを基調にロック、EDMからバラードまで様々な要素を飲み込んだネット世代特有のジャンルレスなトラックと、歌詞やサウンドに忍ばせた和のテイストが生み出す情緒や儚さが、彼らならではの独創的な雰囲気を作り上げている。
個人的には「[Fortune]」「[Elix.]」といった洗練された2曲のインストナンバーもおすすめではあるのだが、After the Rain最大の武器は、なんといっても真逆のカラーを持ったシンガーが一つの曲で生み出す強烈な二重唱にある。そらるは低音を効かせた艶のある歌声で情感溢れる歌を歌い、まふまふはソリッドな高音を得意としながら、キュートなボーカルも披露する豊かな声色を持つ。同作収録のソロ曲「千里の夢と繭」(歌:そらる)と「アンチウイルス」(歌:まふまふ)、デュエット曲「解読不能」「絶対よい子のエトセトラ」を聞けば、二人のボーカリストとしての個性と表現力がはっきりと伝わるはずだ。