KEITA SANOからパスタカス8年ぶりの新作まで、今聴くべき10枚を小野島大が一挙紹介

 ファースト・アルバムが大きな話題を呼んだ英国のファクトリー・フロアのセカンド・アルバム『25 25』(DFA/Pヴァイン)。ディスコ・パンク……というよりは、ミニマル・テクノならぬミニマル・ロックとも言うべき、必要最低限の音しか鳴っていない無愛想でストイックなダンス・ビートを、今回もさらに徹底して展開します。ダンスといっても歓喜の声が湧き上がるフロアの熱気や陶酔ではなく、殺伐としたデス・ディスコ・サウンドの身も毛もよだつ冷気が立ち上ってくるようです。

ファクトリー・フロア「Ya」

 テニスコーツとの共演アルバムでも知られるセカイ(SECAI)は、並木大典と比留間毅によるユニット。オリジナル・アルバムとしては10年ぶりという新作が『Ammonite』(AFTER HOURS)です。非常に思慮深く多様なニュアンスに富んだディープで奥行きのあるポスト・ロック/エレクトロニカ。エストニアのパスタカスとの共演曲やテニスコーツの参加曲も含め、全編ほぼインストに近い7曲ですが、映像的なイマジネーションを喚起させる楽曲は寡黙なようでいて情報量が多く、聴き手に深い思念の底に誘います。時間をかけただけあってサウンドの完成度も高く、素晴らしい傑作に仕上がっています。

セカイ「NIJI」featuring パスタカス

 そのパスタカス(PASTACAS)の8年ぶりの新作『Pohlad』(AFTER HOURS)もリリースされます。8年もかかった一因は、制作途中のデータがコンピューターのクラッシュで失われたことにあったということですが、気を取り直して一から作られた楽曲は、エストニアのフォーク・ミュージックをIDM/エレクトロニカの方法論で展開するパスタカスらしいもの。曲によってはエイフェックス・ツインから冷笑的な悪意を取り除いたような、どこか浮世離れした牧歌的な世界で和ませてくれます。手作りのインディ・ミュージックの良さが伝わる好盤。

 シンガー・ソングライター湯川潮音の別名義sioneをworld’s end girlfriendが全面的にプロデュースしたした3曲入りEP『Golden Age』。「sione」は、歌でありながら歌詞を歌わないというコンセプトだそうですが、湯川の神秘的な声とWEGの狂おしくも美しい緻密なサウンドががっぷり四つに組むのだから悪くなるはずがない。歌は意味などなくても、むしろないからこそ深く広いイマジネーションを生み、無限のニュアンスを伝えてくるということがよくわかります。クラシカルで重厚なサウンドが声とよくあっている。年内にフル・アルバムも予定されているとのこと。

 そして最後に紹介するのは名古屋のラッパー、カンパネルラ(Campanella)の2年ぶり新作『PEASTA』(MADE DAY MAIDER/AWDR/LR2)。地元名古屋のトラックメイカーであるRamzaとFree Babyroniaの作るトラックが圧倒的にクールでかっこいい。LAの最新のビート・ミュージックに通じるディープかつカッティング・エッジなトラックをバックにメッセージを伝えるカンパネルラの実力も見逃せません。ファーストよりもあらゆる面で深化・進化した傑作。関係ありませんが、これを聴いて東京生まれのトラックメイカーEccyの、現在制作中というサード・アルバムを無性に聴きたくなりました。

カンパネルラ「Indigo」

 ではまた来月。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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