小野島大の新譜キュレーション 第2回
フェス・シーズンの最中にリリースされた必聴盤は? 小野島大が6作品をピックアップ
夏はフェス・シーズンということで音源購入よりもライヴにお金を使いがちな季節。なので大型新譜が少なくなるのは海外でも日本でも同じ事情ですが、もちろん良質なアルバムはいくつもリリースされています。前回と同じく、あまりメジャーでないアーティストや、個人的に他メディアで紹介していないものを中心に取り上げていきます。
まずは4ヒーローのディーゴの4年ぶりのソロ・アルバム『ザ・モア・シングス・ステイ・ザ・セイム』(2000black / BBQ)が最高にかっこいいアフロ・ファンク・ハウスでした。4ヒーロー以来の長いキャリアを反映したソウル〜ファンク〜アフロ〜ラテン〜ジャズ〜フュージョンからエレクトロ、デトロイト・テクノ、ブロークン・ビーツまで、さまざまな要素をバランスよく配置したモダンでスタイリッシュな音作りが実にこの人らしい。どれかひとつの要素が突出したりすることなく、いたずらに奇をてらったりすることなく、流れるようなソフィスティケイトされたダンス・グルーヴは一貫していて、立体的で奥行きのある音響デザインも素晴らしい。UKブラック・ミュージックの豊穣な伝統と奥行きの深い音楽性をたっぷり味わうことができます。海外ではヴァイナルとデジタルのみのリリースで、CD発売は日本だけ。Apple Musicでも聴くことができますが、ボーナス・トラック2曲を追加したCDがおすすめです。そして某CDショップ独自特典のミックスCD-Rでは、アルバム以上に黒くアクの強いグルーヴが展開されていて、そちらも必聴です。
続いては来日も決定し既に一部では高い評価を受けているオーストラリアはメルボルンの4人組ハイエイタス・カイヨーテです。ファースト・アルバム『Tawk Tomahawk』(2013年)収録のこの曲の、Qティップをフィーチュアしたヴァージョンがグラミーにノミネートされ、エリカ・バドゥやプリンス、ディアンジェロ、クエストラヴ、ジャイルズ・ピーターソンといった人たちに絶賛され、一躍注目されるようになりました。
そして海外では今年の春にリリースされた2作目の『チューズ・ユア・ウエポン』(Flying Buddha / ソニー)は、前作よりあらゆる点で進化した見事な傑作となりました。
一昔前のアフロ・ポップみたいなアクの強いジャケのイラストや、女性ヴォーカリスト、ネイ・パームの、ブルックリンのアート・ロック・バンドにいそうなエクセントリックな出で立ちからは想像しにくいような、モダンでソフィスティケイトされた独創性の高い音楽性を繰り広げています。いわゆるネオ・ソウル的なR&B、Jディラやフライング・ロータスを人力で展開するような変則的なビートを繰り広げるモダン・ヒップホップ、あるいはロバート・グラスパーに通じる新世代ジャズなど、さまざまな側面からアクセス可能なハイブリッドなミクスチャー・サウンドで、ネイ・パームの変幻自在のヴォーカルも含め、聴けば聴くほどハマってしまうドープな世界です。
またかなりのゲーム好きらしく、アルバム・タイトルは格闘ゲームの起動画面のメッセージからとられているようですし、アルバムのあちこちにゲームの効果音がフィーチュアされているのも面白いところです。