20周年のフジロック、必見の洋楽アクトは? 小野島大が50組を徹底解説
ついに20回目を迎えたフジロック。あの1997年の第一回開催の天神山の悪夢、中止になった2日目の荒れはてた会場を目のあたりにした者からすれば、20年もの歩みを重ねるような一大イベントになるとは想像もしなかったというのが正直なところです。粘り強く実績を積み上げた主催者、ボランティアを含めた数多くのスタッフ、自分たちのフェスを守るという気持ちで支えた観客、地元住民、そして出演したすべてのアーティストの想いの集積が、フジロック20年の歴史です。節目の20回目にふさわしく、豪華なメンバーが揃いました。それでは例年通り、主だった洋楽出演者たちを紹介していきましょう。
7月22日
<GREEN STAGE>
SIGUR RÓS
フジロックは2005年以来となるシガー・ロス。05年最終日のホワイトステージ、3日間のフェスの大団円となるファイナル・アクトでの、苗場の山の精霊をも呼び寄せたかのような神懸かった名演は、いまだに語り継がれる伝説的パフォーマンスでした。それから2013年の日本武道館公演を経て、ついに彼らはグリーン・ステージのファイナル・アクトまで上り詰めました。万感の思いを込めてその現場を目撃しましょう。これは2013年のアルバム『クウェイカー』以来となる新曲です。ライヴでも披露してくれるでしょうか?
James Brake
2012年以来4年ぶりのフジ出演となるジェイムス・ブレイク。前回のホワイトのトリから今回はグリーンのセミ・ファイナルと、順調に出世していますね。インディR&Bに大きく接近した最新アルバム『ザ・カラー・イン・エニシング』を引っさげての凱旋。ど派手な演出やハッタリめいたアゲアゲの音楽性とは無縁なだけに、はたして大舞台を、この天才がどう乗りきるか。見逃せません。
JAKE BUGG
天才と言えばこの人も見逃せない、英国出身の弱冠22歳、ジェイク・バグもグリーン・ステージに登場。新作『オン・マイ・ワン』では、ディランの衣鉢を継ぐ硬派で荒々しく古風なシンガー・ソングライター像を更新する、ダンスやヒップホップやグライムに大胆に接近したアッと驚くコンテンポラリー路線を披露。年齢なりのスタイルとも言えそうですが、はたしてこれがライヴでどう展開されるか注目です。
BIFFY CLYRO
スコットランドの3人組。2年ぶりのフジ帰還です。初の全英1位を記録した『オポジット』以来となる7作目『エリプシス』リリース直後という絶好のタイミングでの登場。バンドの格と勢いからするともう少し遅い時間帯での出演でもいい気がしますが、オーセンティックなロック・バンドのダイナミズムとエネルギーをたっぷり味わわせてくれるはず。
<WHITE STAGE>
DISCLOSURE
あまり「天才」を連発するのも文筆業者としていかがなものかと思いますが、このサウス・ロンドン出身のローレンス兄弟には、どうしてもその言葉を使いたくなります。20歳そこそこで異様に完成度も快楽度も高い研ぎ澄まされたダンス・トラックを連発する早熟の天才たち。昨年発表された2作目『カラカル』は、圧倒的に美しくスタイリッシュで研ぎ澄まされた歌ものハウス・アルバムとして非の打ち所のない完璧なアルバムでした。ライヴでは趣味のいい映像演出も含め、CDとはちょっと違って、気取ることなくアゲアゲで盛り上げてくれます。2年ぶり2度目のフジロックは、ついにホワイトのトリで登場。恐らくは夏フェス・シーズンに向け先月リリースされたシングル「Moog For Love」からの曲も演奏してくれるはずです。
FLIGHT FACILITIES
オーストラリア出身のダンス〜エレクトロニカ・デュオ。温かみのある洗練されたムーディーなアレンジと、アンビエントでディープなサウンドのマッチングが絶妙で、いつまでも聞いていたいと思わせます。夜8時からという出番の時間帯も絶好ですね。
それにしてもフライト・ファシリティーズ〜ジェイムス・ブレイク〜シガー・ロス、そしてディスクロージャーが微妙に重なるこの時間帯。フルで見られないのを承知で掛け持ちするか、決め打ちするか。悩ましいですね。
THE INTERNET
今年初頭の来日公演の記憶も新しい、オッド・フューチャーが生んだ新世代R&Bの旗頭。どこまでもソフィスティケイトされたエモーショナルでモダンなソウル〜スロー・ファンクは、たまらなくアーベインでスティミュラスです(どこかで聞いたフレーズ)。苗場の夕方の空気をまったりと染めてしまうような、さりげなく自然なパフォーマンスが期待できそう。
LA GOSSA SORDA
ラ・ゴッサ・ソルダはスペインはバレンシア出身の結成17年目を迎えるベテランですが、なんとこのフジロックのライヴを最後に解散するそう。スカやレゲエ、ヒップホップやパンクにバレンシアの民謡などを掛け合わせたミクスチャー・ロックは、言ってみればフジという場でもっとも受け入れられやすいスタイル。これを見てもライヴでの盛り上がりが容易に想像できそうです。そういう意味でもこれで解散とは残念ですが、それだけに全身全霊を込めた熱演を見せてくれるはず。同日深夜、パレス・オブ・ワンダーにも登場します。
<Red Marquee>
COURTNEY BARNETT
昨年発表したファースト・アルバム『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』が世界中で絶賛され、グラミー新人賞にもノミネートされるなど、今やもっとも旬なインディ・ロック系アーティストと言って過言でないコートニー嬢。豪快で骨太、足腰のしっかりした演奏、含蓄と閃きに富んだ歌詞、キップがよく竹を割ったような歌は、隠せぬ知性と飾らぬ生成りの魅力に溢れています。昨年の単独来日公演に続いてのこのフジでのパフォーマンスで、彼女の評価は決定的なものになるでしょう。
LÅPSLEY
ポスト・アデルを期待されるXLレコーディングスの最大の期待株。強い意志を感じさせる目、堂々たる体躯、力強い歌声で、一度見たら忘れられない新世代シンガー・ソングライターの筆頭格です。一昨年のロードぐらいのインパクトのあるパフォーマンスになる可能性大。
TRASHCAN SINATRAS
90年ギター・ポップのベテランが7年ぶりの新作『ワイルド・ペンデュラム』を引っさげて、フジに戻ってきます。スコットランドの暖かい風を届けてくれるような瑞々しく叙情的なサウンドは永遠不変の魅力。なかでもこれは忘れがたい名曲ですね。
<PLANET GROOVE>
Mura Masa
UKのトラックメイカー。スクリレックスやディプロも注目する若手ですが、一昨年出たファースト・アルバム『Soundtrack to a Death』や昨年出たEP『Someday Somewhere』ではジェイムス・ブレイクに通じるディープでアブストラクトなダブステップ〜インディR&Bを展開、ポップでソウルフルなヴォーカル・チューンやエキゾティックなインストなど幅広い音楽性を披露しています。本国では下のリンク先のようにバンドを率いたライヴもやっている模様で、かなり音楽性は高い。今回のフジはたぶんダンサブルなDJセットだと思われますが、いずれバンド・セットでの単独公演も見てみたい逸材です。
SOPHIE
マドンナや安室奈美恵、リズ、チャーリーXCXなどへの楽曲提供で注目を集め、ディプロも評価する英グラスゴー出身のベース・ミュージックのトラックメイカー。きゃりーぱみゅぱみゅとの交流で日本のkawaiiカルチャーとも接点を持ち、アート、サブカルチャー方面からも注目を浴びている気鋭です。分厚く無機質な電子音がうねりまくるトラックとピッチをあげまくった狂ったようなヴォーカル、メロディはポップでキャッチー、全体の雰囲気は人懐っこく多幸感に溢れていて、アッパーでアッケラカンとしたセンスは、90年代レイヴにも通じると言えるでしょう。深みや奥行きや味わいといったものを徹底的に排除した乾いたポップ感覚は確かに面白く刺激的です。草木も眠る深夜のレッド・マーキー。おそらく徹底してアゲてアゲてアゲまくってくるはずなので、体力を温存して挑みましょう。
<Field of Heaven>
THE NEW MASTERSOUNDS
2008年フジロックでの熱演が好評を博し日本でも根強い人気を誇るジャズ・ファンク4人組です。非常に小気味のいい、バランス感覚に富んだ演奏をする人たちで、破天荒さや豪快さというより、精密に組み上げたアンサンブルの妙で聞かせるタイプですね。初日のフィールド・オブ・へヴンのトリ。適任だと思います。
LEE “SCRATCH” PERRY
今さら説明の要もないジャマイカの巨人、正真正銘のレゲエ・レジェンドが生誕80周年を迎える今年、ついにフジに降臨です。単独公演も予定されてますが、やはりフィールド・オブ・へヴンのスモーキーな空気感の中で、ワビサビの極致とも言うべきニュアンスの塊のような歌と演奏をゆるゆると楽しむのがベストかと思います。いつまでもいると思うな親とペリー。
JUMP WITH JOEY
伝説のLAのジャンプ・ブルース〜スカ・ラテン・バンドが、なんとフジロック20回を記念して一晩限りの再結成です。メンバーのひとりウイリー・マクニールは「ビッグ・ウイリーズ・バーレスク」でフジロックに何度か来ているのでお馴染みでしょう。リンク先の動画は25年も前のものですが、たぶん歳をとった彼らの演奏は昔よりも深い味わいが出てきていると予想します。3日目深夜のパレス・オブ・ワンダーにも登場。