KEITA SANOからパスタカス8年ぶりの新作まで、今聴くべき10枚を小野島大が一挙紹介

 気がつけばすっかりご無沙汰していた新譜キュレーション。最近の新譜から目立ったものを挙げていきましょう。石野卓球新作(大傑作)など、例によって誰もが注目しているような大物や話題作は除外しています。

 まずはKEITA SANO『The Sun Child』(Crue-L)。岡山在住の日本人ハウス・クリエイターです。とにかく作品数の多い人で、3年ぐらい前からあちこちの海外レーベルでヴァイナルをリリースし始め話題になっていました。私が初めて耳にしたのがセカンド・アルバム『Holding New Cards』(2015)で、ノイジーなロウ・ハウスやアシッド・ハウスからディープなミニマル・ハウス、ドリーミーなエレクトロニカまで、荒削りながらも多彩なスタイルをガツガツと消化していく生々しく濃密なエネルギーと情報量の多さが印象的でした。ジャンルによる細分化が成立する前のクラブの混沌をそのままパッケージしたような面白さがあったのです。実は初のCDリリースとなるサード・アルバム『The Sun Child』は、レーベルも初の国内リリース。プロデュースとマスタリングにceroや電気グルーヴ、石野卓球、THA BLUE HERBなどを手がけている得能直也を迎え、音質は格段に向上。多彩なスタイルはそのままによりフロア・コンシャスな洗練度を増し、アレンジもサウンドメイクもぐっとクオリティが上がりました。その分以前の荒々しさや、ワケのわからないものを聞いたという異物感はやや薄れましたが、聞きやすく心地好いグルーヴの中にドラマティックな聞き所がたくさん用意されていて、そこらへんはさすがにCrue-Lからのリリースという感じです。才気煥発の1枚。まだ20代半ばというご本人の純朴な高校生みたいな坊主頭のルックスも面白い。

 ロンドン在住のライアン・リー・ウエストによるプロジェクトRIVAL CONSOLESのミニ・アルバム『Night Melody』(Erased Tapes)。昨年発表されたアルバム『Howl』も傑作でしたが、今作も素晴らしい。メランコリックでメロディアスなミニマル〜ディープ〜テック・ハウス。前作よりもサイケデリックでドリーミーな側面が強調され、ひたすら気持ち良く酩酊できる良質なダンス〜リスニング・トラックに仕上がっています。

 シカゴの奇才Hieroglyphic Beingことジャマール・モスの『The Disco's Of Imhotep』(TECHNICOLOUR)。アウトサイダー・アートならぬアウトサイダー・ハウスの異名をとる異色音楽家の最新作です。この人も作品の多い人ですが、今回も持ち前のアブストラクトでフリーキーでビザールなセンスのエレクトロニカが炸裂。軋み音のようなけたたましいノイズがキリキリするような刺激を生み出すトラックから、カラフルな星屑が舞い降りるようなエレクトロニカまで、予測ができない展開がスリリングです。シカゴの先輩グリーン・ヴェルヴェットの変態精神を受け継ぐのはこの人に違いありません。昨年リリースされたフリー・ジャズや実験音楽家たちとの共演盤『We are not the First』も強烈なのでぜひ。

 ポーランドのJACEK SIENKIEWICZの新作『HIDELAND』(RECOGNITION)は、彼らしい美しく緻密で狂おしいミニマル・テック・ハウス。後半になるとパースが狂ったような異様な音像が展開され、一部も隙もなく緻密に組み立てられた建造物が崩れ去っていくのを眺めているような、奇妙な高揚感がある佳作です。

 そのJACEK SIENKIEWICZと共演経験もあるミニマル・テクノの魔王VILLALOBOSことリカルド・ヴィラロボスのニュー・シングル『DETROIT HEROES EP』(RAUM...MUSIK)がまた、素晴らしい。彼らしいミニマル・ループに、ブルージーなスライド・ギターが乗るミニマル・テクノ・ブルースともいうべき、とびきりクールな逸品。ぜひともフロアで爆音で聞きたいと思わせてくれます。ヴァイナルのみ発売の模様。

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