キュウソネコカミと盟友たちが刻んだ“ロックバンド”を続ける意義 愛溢れた『極楽鼠浄土』を完全レポート

2025年3月20日、キュウソネコカミが対バンイベント『極楽鼠浄土』を兵庫・神戸ワールド記念ホールで開催した。メジャーデビュー10周年を記念した同イベントにはキュウソネコカミに加え、KANA-BOON、ゲスの極み乙女、SHISHAMO、BLUE ENCOUNT、ヤバイTシャツ屋さんが出演。恋や笑い、情熱といったそれぞれのやり方でバンドシーンを競争してきた5組の盟友たちが集結した。
SHISHAMO
開幕を告げる映像に迎え入れられ、ロゴを冠したネオンが紅白に灯る舞台へ登った宮崎朝子(Gt/Vo) と松岡彩(Ba)、そしてサポートドラムの歌川菜穂を迎えたSHISHAMOは、キュウソの「カワイイだけ」のカバーで祝祭の始まりを告げた。彼女たちが〈かわいいは作れるけど/それ以外君は作れない〉なんて口にする様子はなかなかアイロニカルな手触りさえあるものの、そこには〈さぁ今こそ本当の自分の魅力を取り戻せ〉と歌われる絶対的な自己回帰への共感と、「私たちにもいつも構ってくれて、フェスとかでもキュウソがいると思うとすごく安心するし、そんな存在のキュウソネコカミというバンドがいてくれるだけで嬉しい。感謝やらリスペクトやらをこめて一曲目カバーをやらせていただきました」と語った通りのキュウソへの敬愛の念が濃縮されている。


SHISHAMOの最新曲「自分革命」で、自身もCDデビュー13年目を迎える説得力を示しつつ、「最高速度」「恋じゃなかったら」と特大のアンセムをプレゼントしていく。エンディングに据えられた「明日も」の最中、スクリーンに映し出されたのは、3人の背中と満開のファンの姿。それはSHISHAMOの楽曲が様々な人の日常に寄り添い、癒しとして鳴り続けてきたことを証明していた。


ゲスの極み乙女
藍に染まった雨模様のステージにしとしととキーボードを積もらせ、「猟奇的なキスを私にして」でスタートを切った2番手・ゲスの極み乙女。リバーブ感の強いギターがシュワシュワと会場を満たした「ロマンスがありあまる」や、ほな・いこか(Dr)によるタムの連打にレーザーが舞った「crying march」をはじめ、彼らのポップネスの根幹を担うテクニックはもはや説明不要のチャームとして機能している。それでも、休日課長(Ba)に身体を向けて歌う川谷絵音(Vo/Gt)の横顔や高速展開されるメロディの飛び石を冷静に渡っていくちゃんMARI(Key)の手元は心底美しく、惚れ惚れする。




始めたばかりだというちゃんMARIの笛がミステリアスなスパイスを加える中、怒りをぶつけるポエトリーリーディングやアタッキーなスラッププレイが怪しく響く新曲では、川谷がヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)に向けた手紙をほな・いこかが朗読するひとコマも。ヤマサキを迎え入れ、コール&レスポンスを展開した「ドレスを脱げ」から「キラーボール」で走り抜けた40分。決してしみじみすることなく、音楽を通じて感謝を伝えることに徹してきたからこそ、川谷が最後に贈った「キュウソネコカミ。本当にありがとう」の言葉が切実に染み込んでいった。


KANA-BOON
谷口鮪(Vo/Gt)が「キュウソの名に、KANA-BOONの名に恥じぬよう一生懸命やらせていただきます」と狼煙を上げ、「シルエット」でキックオフした3番走者・KANA-BOONは、五月雨式に「フルドライブ」を投下してのっけから激走。4人で熱唱される「シルエット」のメロディや〈鳴らせ〉という叫びからは、1つの生き物として結束している現在のバンドの一枚岩っぷりが窺える。

「ファッションミュージックを鳴らせないと生き残れない世界でお互い10年以上やってきました。お互いメジャーデビューから10年やってます。今日は盟友としてとことん盛り上げつつ、キュウソへの最高のライブをお見せしますのでどうか最後までよろしくお願いします」とビビり気なんてゼロの宣誓布告とともにドロップされたのは「盛者必衰の理、お断り」。容易に移ろってしまうこの時代の諸行無常を見つめつつ、埃の被らない音楽を轟かせんとする1曲は、平坦ではなかった通り道の中で幾度も捲土重来してきたKANA-BOONがキュウソに向けて歌うことで、揺るがないメッセージへと昇華されていく。谷口が零れるように叫んだ「バンド最高!」の一声は、高らかなファンファーレとして届いていた。


「キュウソが10年以上の付き合いで、今もメジャーの世界でそばにいなければ、俺たちはバンドを続けてこれなかったかもしれない。これは本当に大袈裟ではなくキュウソは俺たちにとっては大切な仲間です」「相変わらずくそったれな社会で何とか生き抜こうと必死で音楽に喰らいついてる。まだ音楽があなたのそばにあることを願いながら」と言葉を継ぎ、「まっさら」や「日々」など新たな楽曲群を中心に置いたKANA-BOON。まだまだ彼らが成長している事実は、キュウソにとってもガソリンとなったに違いない。
