『キングスマン』との違いは? 『ARGYLLE/アーガイル』を“虚構”のキーワードから紐解く

“虚構”から紐解く『アーガイル』

 コミックを原作とするヒーロー映画『キック・アス』に関連するシリーズや、同じくコミック原作の英国スパイ映画『キングスマン』シリーズなど、大作映画企画を同時に走らせている、監督、プロデューサーのマシュー・ヴォーン。そこにさらに新たな幕開けとして、彼自身が監督した一作が公開された。それは、またしてもスパイを題材とする『ARGYLLE アーガイル』である。

 『キングスマン』シリーズ同様、荒唐無稽な展開やコメディ色の強いアクションが展開していく本作『ARGYLLE/アーガイル』であるが、単純に娯楽として楽しませるだけでなく、一筋縄ではいかない謎めいた展開や、革命的な描写を成し遂げてもいる。ここでは、そんな本作の突出した部分について、“虚構”というキーワードを使いながら考えていきたい。

ARGYLLE/アーガイル

 主人公は、ブライス・ダラス・ハワードが演じる小説家エリー・コンウェイ。彼女が執筆している、凄腕のスパイ“アーガイル”が世界を駆け巡る『007』タイプの小説『アーガイル』シリーズはベストセラーとなり、大勢のファンを獲得している。本作の冒頭では、ヘンリー・カヴィルが角刈りのような髪型で演じるアーガイルがギリシャでミッションに身を投じ、窮地に陥る過程とド派手な活躍が描かれ、エリーの書く物語がどんなものなのかを理解することができる。

 派手なアクションが展開する小説の内容とは異なり、作者のエリー自身は地味な服装と落ち着いた性格で、飼い猫アルフィーを可愛がりながら、ひたすら執筆を続ける毎日を送っている。しかし、あるとき彼女はなぜか謎の組織の集団につけ狙われてしまう。そんな絶体絶命のエリーの前に現れたのは、サム・ロックウェル演じる、本物のスパイ、エイダン。彼は集団の襲撃に対応し、エリーを護衛するのだった。まさにエリーが書く小説のようなシチュエーションが現実のものとなったのだ。

 本作のストーリーは、この後さらに意外な方向に転がっていくのだが、ここまでの内容を観る限りは、トム・クルーズがスパイを演じる『ミッション:インポッシブル3』(2006年)や『ナイト&デイ』(2010年)のように、国際的なミッションや戦いに縁のない一般的な女性が大がかりな陰謀に巻き込まれ、凄腕スパイに守られるといった内容の作品と同一の構図が表現されているといえる。これは、ある種の女性の潜在的な欲望の具現化といってもいいだろう。つまりは、“頼もしい騎士に守られる姫”になることへの憧れだ。この時点で、本作の展開は一種のファンタジーであることが分かる。

ARGYLLE/アーガイル

 だが前述したように、本作は意外な展開を見せ、その構図を打ち破っていくこととなる。主人公エリーは受け身な状態から、全く真逆の立場となり、性格や服装、メイク、そして事態に対して有能な動きをするといった変化を見せるのである。このあたりで本作を楽しめる観客と、そうではない観客に二分されることになるのではないか。なぜなら、ストーリーの流れがあまりに荒唐無稽であり、とりわけ主人公にとって都合が良すぎると思える部分が多いと感じられるからである。しかし本作のラストシーンでは、その流れをまた意外な描写によってひっくり返してしまう。それが具体的に何なのかを述べることは避けるが、小説や映画という“虚構”の世界について考えさせる要素になっているというのは確かだろう。

 マシュー・ヴォーン監督は、『キングスマン』(2014年)において、近年の『007』映画のテイストがシリアス過ぎて、本来の荒唐無稽な魅力に欠けるといった意見を、作中で披露している。そんな不満を晴らすかのように、『キングスマン』シリーズは昔ながらの荒唐無稽な展開を描く、ある意味で“補完的”といえる内容となっている。そして、そんな作風は本作にも通底しているといえる。

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