趣里、伊原六花、蒼井優らの“プロ意識”に感服 『ブギウギ』に集った“優れた身体表現者”
たとえば、1年間だけ集中的にジムに通い詰めて肉体改造に成功したとして、ジム通いをスパッとやめてしまったらどうなるだろうか。中学時代に長距離走で全国クラスだった人間が、走るのをやめてしまったらどうなるだろうか。前者はそのうち元の体型に戻り、後者は少し走っただけで息切れするようになるはず。人間の身体を変化させた場合、何よりも難しいのはそれを維持することなのだ。そもそも、身体を変化させるためには運動だけでなく、食事などの生活面にも気を配らなければならない。踊りも同じ。一朝一夕にはいかない。趣里たちは俳優としてさまざまな役を演じながら、動ける身体の維持を行っているわけだ。
現在開催中の「さいたま国際芸術祭」にて、ダンサーで振付家の倉田翠が手がけた『指揮者が出てきたら拍手をしてください』という作品が上演された。これは「かつてバレエをやっていた(やめた)」が公募条件のオーディションで選ばれた20名弱の出演者が、個々の身体に残る“バレエの記憶”とともに、現在のありのままの姿での踊りを披露するというもの。それぞれが異なる理由でバレエをやめ、いまの社会で生活を送っている。動きのキレやしなやかさ、開脚時に足がどこまで上がるのかはそれぞれ違う。バレエ経験のない筆者からすれば誰もがすごいのだが、決して“上手い”というわけではない。しかしそんなところにこそ、一人ひとりが生きてきた軌跡と日常が垣間見え、胸を打たれたのだ。
彼ら彼女らの姿を目にしたからこそ、なおのこと身体を維持することの難しさを思い知った。『ブギウギ』で踊る面々は、相当な困難を乗り越えてあのステージに立っている。しかも趣里たちは個々の人生に加え、今作で演じる役の人生だけでなく、これまで演じてきた役の人生もが踊りに反映されることとなる。だからこそ、あんなにも魅力的なショーを作ることができるのだろう。
2017年の日本高校ダンス部選手権にて一躍有名となった「バブリーダンス」のセンターを伊原が務めていたことは広く知られている。彼女が演じる秋山は華麗なタップを披露するUGDの男役。その身のこなしの凛々しさからは、彼女が男役をそれらしく演じているわけではなく、身体の細部の構造にまで意識を向けて踊っていることがよく分かる。たんなる模倣では、あのレベルのパフォーマンスには到達しないだろう。
現役で世界的に活躍する小栗はもちろんのこと、日本舞踊の紫派藤間流の家元も務める藤間爽子も『ブギウギ』には出演しているので、とにかく贅沢である。UGD旗揚げ公演のショーを超えるものが、あといくつ観られるだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK