役者は監督業で俳優に何を求める? 土屋太鳳、野村萬斎らが作るショートフィルム

『アクターズ・ショート・フィルム』の面白さ

 WOWOWが贈る『アクターズ・ショート・フィルム』は、俳優が監督を務める短編映画シリーズだ。現在WOWOWオンデマンドで配信されている第1弾、第2弾に続き、2月11日から放送・配信が始まる第3弾では、高良健吾、玉木宏、土屋太鳳、中川大志、野村萬斎の5人が監督を務めている。

 ショートフィルム制作には「1. 尺は25分以内」「2. 予算は全作共通」「3. 原作物はなし」「4. 監督本人が出演すること」という共通ルールがある。

 逆に言うと、このルールさえ守っていれば、何をやってもいいということだ。

高良健吾
玉木宏
土屋太鳳
中川大志
野村萬斎
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高良健吾
玉木宏
土屋太鳳
中川大志
野村萬斎
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 例えばプロジェクト第1弾の中の1作である磯村勇斗監督の『時計仕掛けの君』は、アンドロイドが進化した近未来社会でおこる反体制運動を題材にしたSF短編映画で、泉澤祐希主演で撮っている。幼少期に通った絵画教室の先生との思い出を描いた白石隼也監督の『そそがれ』のような純文学のようなドラマもあれば、永山瑛太が演じる部屋に引きこもっている謎の男の過剰なモノローグが不条理な映像とともに展開されていく森山未來監督の『in-side-out』など作品のバリエーションはとても豊かだ。

 これは「原作物はなし」だからこそ生まれた奇跡だと言える。

 俳優が監督を務めるというルール以外はかなり自由なので、何が飛び出すかわからない短編シリーズとしても充分楽しめる。勝ち負けこそないが、「定められたルールの中であの俳優はこういう短編フィルムを作ったのか」と、各作品を比較してゲーム的駆け引きを観るような面白さもある。

 ふだんは俳優を生業としている監督が、別の役者を主演に立てて、こういう役を演じてほしいとオファーしている作品がほとんどだが、役者出身の監督が、それぞれの俳優に何を求めているかを裏読みしながら観ると、面白さが倍増する。

 同じ作品を作っていても全体像を考えて作る監督と役を演じることを第一に考える俳優では、作品に対するアプローチや目標は微妙に異なるもので、そのズレが映像作品の面白さであり難しさだ。

 しかし『アクターズ・ショート・フィルム』は俳優が俳優を撮るため、与える役も演者に寄り添ったものになる傾向が強く、こういう役を演じたい、こういうふうに撮られたいという監督の本音が透けて見える。その意味で、どのショートフィルムも俳優の魅力を極限まで引き出すことに成功している。それは今回の5作にも当てはまる。

『CRANK-クランク-』

 高良健吾が監督した『CRANK-クランク-』は、荷物を届けるために東京中を自転車で走るメッセンジャーの丸(中島歩)の日常を切り取った物語だ。過剰な要素を極限まで削ぎ落としており、哀しい笑いのようなものが劇中を支配している。メッセンジャーの友人・ヒデ(染谷将太)とのやりとりも、静かな芝居の応酬の中に生活感が滲み出ており、こういう静かな芝居ができたら楽しいだろうなぁと思わされる。

『COUNT 100』

 一方、玉木宏が監督した『COUNT 100』は、林遣都が演じるプロボクサーの光輝がボクシングのために、身体を鍛え上げ没入していく様子が描かれた動きの多い作品だ。『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)を思わせる不条理SFだが、ボクシングに没入する“もうひとりの自分”を醒めた目で見つめる私、という距離感の描き方は表現論的で、ボクサーを俳優に見立てた演技論のドラマとしても楽しめる。

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