『ぼっち・ざ・ろっく!』CloverWorksによる秀逸なアニメ化 “挑戦”に溢れた魅力を紐解く
群雄割拠、話題作が多い秋アニメの中でも『ぼっち・ざ・ろっく!』の評価がうなぎ登りだ。この秋は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』などの歴史のあるシリーズの新作や、大ヒット原作のアニメ化があり、スタート前は注目度が特別高かったとは言い難いが、その表現手法の多様さもあり、注目度を増している。
『ぼっち・ざ・ろっく!』は、はまじあきが原作を務める4コマ漫画を原作としたアニメ作品。内向的で友達を作れないコミュ障の後藤ひとりは、中学時代にギターを練習し、人気者になろうとするが、結局友達が1人もできずに卒業してしまう。ひとりは高校生になったある日、バンドメンバーを探していた伊地知虹夏に誘われてバンドに入る。コミュ障を拗らせすぎたひとりが直面する日常が、コメディタッチで鮮やかに描かれていく。
映像制作を手掛けたのは写実的な描写に定評のあるCloverWorks。野島伸司が脚本を手掛けたことでも話題となった『ワンダーエッグ・プライオリティ』では、実写ドラマのような画作りを模索していたほか、今年放送された『明日ちゃんのセーラー服』では登場人物の繊細なキャラクター描写によって、リアルにより近い映像を生み出していた。写実的な描写のアニメスタジオといえば京都アニメーションが思い浮かぶが、CloverWorksも負けず劣らずの描写を見せ続けている。
その一方で、原作が連載されている『まんがタイムきららMAX』(芳文社)は決してリアル路線の作品を扱っている漫画雑誌ではない。きらら系作品の特徴としては、3頭身ほどのデフォルメされたキャラクターたちが、日常的なコメディを繰り広げるパターンが多い。世界の危機などの大きな物語は発生せず、ほんわかとした、いわゆる”ゆるふわ”な癒しの作風が売りだ。今作もその例に漏れず、漫画のデフォルメされたキャラクターたちのかわいさが魅力のひとつとなっている。
きらら系、写実描写の上手いスタジオ、女子高生のバンドの話……これらを総合すると『けいおん!』を連想する方もいるだろう。実際、本作を語る際に『けいおん!』を引き合いに出す例も見受けられる。また第1話に関しては足を映す独特なカットも多く、山田尚子監督へのアンサーなのか? と思う演出も見受けられた。
しかし、第2話目以降からは、単なる日常を楽しむ女子高生たちを楽しむという路線から大きく乖離していき、作品の個性が発揮されていく。原作の4コマ漫画のコマとコマの間で、より話と表現を膨らませる。そしてキャラクターや背景などがデフォルメされた原作を、写実性の追求が目立ったスタジオが、どのように映像化するのか。その答えの1つが本作には込められているのだ。
例として第3話に注目しよう。冒頭でひとりが、サイドテールの髪の毛を、ひたすらにブラッシングしているギャグ描写が展開される。原作では「憂鬱な月曜日が始まった」と布団にくるまる場面から始まり、他力本願で誰かに話しかけられることを期待を込めながら学校へ向かうものの、このひとりの日常はさほど描写されない。つまりサイドテールをブラッシングするのは、アニメオリジナルである。
ここでまとまった髪の毛=サイドテールという漫画的な記号を、ひたすらブラッシングするという行為は、現実に忠実な写実性があるわけではない。まさに漫画・アニメならではの表現だが、だからこそ今作のコミカルさをより助長する結果となっている。これが漫画のコマとコマをオリジナル描写でうまく繋いだ一例だ。