下北沢ライブハウス店長が観た『ぼっち・ざ・ろっく!』 結束バンドがいる現場のリアル

『ぼっち・ざ・ろっく!』舞台下北沢の生の声

ガラガラのフロアからワンマンライブで即SOLD

【Lyric Video】結束バンド「ギターと孤独と蒼い惑星」/ TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」第5話劇中曲

ーー結束バンドのようなバンドが自分のライブハウスから成長していくケースは実際にあることかと思います。その辺りはライブハウスの店長目線でいかがでしょうか?

梅澤:結束バンドのドラムのお姉ちゃんがライブハウスの店長で、バンドメンバーもバイトをしているという関係性もありますが、初ライブの打ち上げで、店長的にもしっかり応援したいからこそ厳しくするという描写は、すごくわかるなと思いました。頑張ってほしいし、売れてほしいし、たくさんの人に聞いてほしいけれど、甘やかしたらダメだよなと。試練を与えるというか、1つ1つ壁を超えて成長してほしいなというのは、僕自身も思います。実際、下北沢のライブハウスでも、最初はノルマがかかるようなイベントに出て、着実に人気がついてきて、その人気によってノルマを払えたりするようになる。そこから自主企画を開催して、ツアーを回るようになって、人気が出ていく……というのが、ある種ライブハウスの若手たちがやっていく道のりなんですよね。そういう子たちが売れていく一方で、ぼっちちゃんみたいにYouTuberとして人気がある人たちもいます。ライブはやらないけどネットで人気が出る人たちもやっぱりいて、その二面性はすごくライブハウス泣かせではあって。ネットで活動してる人たちって、僕らが声をかけてもライブに出てくれないし、ぼっちちゃんもソロプレイヤーとしてはネットですごく人気だけど、最初にバンドで合わせた時にボロボロだったりする。そういうバンドの難しさみたいなところも描いているのはさすがだなと思いました。先ほど、ライブハウス泣かせとは言いましたが、ライブハウスに出るのが全てではありません。ライブハウスに出なくとも、音楽ができる環境があることはとても魅力的だと思うので、人に合った音楽との触れ方をして、表現をしていってほしいなと思います。

ーー実際、バンドに対して何か厳しいことを言ったことはありますか?

梅澤:まあまあ、ありますね(笑)。例えば、「ライブはめちゃくちゃ上手いんだけど、曲がよくないよね」とか。ライブは目で見て耳で聞くものなので、MCだったり、ギターを振り回したり、ボーカルが途中でギター弾くのやめてマイクを持って歌ったりなど、パフォーマンスがカッコよかったらインパクトはあります。ただ、家に帰ってそのバンドの音源を耳だけで聞くと、なんかイマイチだなと思う瞬間があったりするんです。そういう人たちには「もっと曲のアレンジをよくしたほうがいいんじゃない」と言ったり。逆に音楽はすごくいいけど、ライブはずっと棒立ちで弾いているような人たちには、「全然それもいいんだけど、自分が楽しく演奏していないとお客さんを楽しませられなくない?」みたいな話をしたりしますね。あと、商業的にメジャーデビューして売れたいという人たちに、身なりについて厳しく言ったこともあります。ただ、100組のバンドがいれば100組それぞれの正解があるので、頭ごなしに否定したりするような厳しいことは言わないように心がけています。やっていることは音楽なので、最終的には音楽が良いと評価されるように、バンドと話し合いながらやっていきたいですね。

ーー『ぼっち・ざ・ろっく!』を観ていて、結束バンドとSTARRYの店長・星歌のように、バンドとライブハウスの関係性は、親子や師弟関係ともまた違う、なにか特別な関係のように感じます。

梅澤:ライブハウスで働いていてやりがいを感じることの一つが、バンドが成長していってくれることです。ブッキングイベントでガラガラのフロアで演奏したり、お客さんはゼロで対バンの演者とスタッフの僕くらいしかフロアでライブを観ていなかったようなバンドが着実に成長して、ワンマンライブで100人即SOLDみたいな景色を見ると、一緒にやってきてよかったなと思います。それはもちろんバンドが頑張った結果。でもそのバンドの頑張りを真横で見れる仕事なので、純粋によかったなと思います。それと、イベントを組む側として、企画に出てもらったときにバンドが本当に楽しそうで、来てくれるお客さんも楽しそうという、確実に繋がる瞬間があって。そんなイベントができたときにもすごく達成感を感じます。最近だと、w.o.d.というバンドが『FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY 2022』に出演して、『ARABAKI ROCK FEST.23』への出演も発表されたり、大きなイベントにも出るようになったんですが、彼らが上京して初企画をやってくれたのが、僕のライブハウスなんです。最初に出た2018年頃は動員0〜3人くらいだったんですけど、2022年12月23日にワンマンをやったときは即完でした。『ぼっち・ざ・ろっく!』でも台風が来て、ライブができるのか、お客さんが来るのかと雲行きが怪しくなったときに、チケットを買ってくれた人が来てくれていましたが、そういうときって、ライブハウスのスタッフとしてもよかったなという思いにはなるんですよね。

w.o.d. - リビド [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

ーー『ぼっち・ざ・ろっく!』は今後、音楽シーンにどんな影響を与えていきそうでしょうか?

梅澤:「若者の〇〇離れ」みたいなことが結構あると思うんですが、そのうちの1つが音楽や楽器でもあると思っていて。『ぼっち・ざ・ろっく!』のおかげで、またライブハウスに遊びに行きたいと思う人、音楽を始めてみようと思う人、昔は音楽をやっていて辞めてしまったけど、また楽器を触ってみようかなと思う人が増えて、とにかく音楽に触れる機会が増えたのではないかと思います。働く側としては、せっかく下北沢という街を舞台にしてくれているので、より盛り上げていけたらなと。ライブハウスで働いている人も、意外と怖くないので(笑)。下北沢の街と音楽が一緒になったサーキットイベント「下北沢にて」をやっていたりもするので、これからも下北沢から音楽を盛り上げて、世界に発信することができたらなと思います。

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