『岸辺露伴は動かない』第3期の注目ポイントは? 渡辺一貴監督に聞く実写化の醍醐味

『岸辺露伴は動かない』監督インタビュー

第3期で「凄みが増した」高橋一生の岸辺露伴

ーー高橋一生さんが演じる岸辺露伴と飯豊まりえさんが演じる泉京香のやり取りに変化はありますか?

渡辺:露伴と京香のやり取りは、物語の中でもどちらかというと少し落ち着いた、安心して見られるという部分で、テンポの良い会話のやり取りは1期、2期と変わってはいません。ですが、今回は2人の関係にちょっとしたトラブルが起きるので、いままでとは違った雰囲気になっているかと思います。

ーー3年目の撮影で感じた高橋一生さんの魅力は?

渡辺:1期も2期も同じ岸辺露伴だし、高橋一生さんなんですけど、1期と2期でも見え方が変わっていると思うんですね。それは今回も同じだと思っていて、このチームで積み重ねてきたものを3年目にどう出すかということと、あとは一生さんがこの2年間いろいろなお仕事をされて積み重ねてきたものが上乗せされて、露伴を通して出していただいているような感じがしています。僕たち自体はそんなに1期と変わったことをしているとは思っていないんです。ただ参考に1期の映像を観ると見え方が違っていたり、表現の仕方が変わっていたりしていて、そこは我々にとっても発見ですし、見比べてこういうところが変わってるなと楽しんでもらえたらと思います。

ーー「見え方が変わった」というのは?

渡辺:荒木先生のお言葉を借りると「凄みが増した」。露伴はいつも自分から危険に飛び込んでいってしまいますが、今回はさらに自分の身を危険に晒して追い詰められていく場面が2話ともにあります。謎に対する向き合い方が第三者的というよりはその中にどっぷり入っていくところが今回の特徴かもしれません。ダイレクトに敵と対峙するところが、凄みが増しているように見える理由の一つなのかもしれないですね。

ーー3年目ということで撮影までにはスッと入っていったのでしょうか?

渡辺:一生さんとは今回が一番作品のことに対して話をしたかもしれないです。「ホットサマー・マーサ」は時間が飛んでいく複雑な話ですし、細かいところにメッセージが込められているので、そこを読み解くのが楽しくもあり、難しくもあり、一つひとつのシーン毎に一生さんと擦り合わせをしながら進めていきました。「ジャンケン小僧」は、構成自体はシンプルな2人芝居なんですけど、『ジョジョ』の世界でのスタンドバトルを今回の『岸辺露伴は動かない』の映像の世界に落とし込む時に微妙なアレンジをしていかなければならなくて、その辺りの塩梅は細かく相談しながら進めました。

ーー「ジャンケン小僧」を落とし込む時の微妙なアレンジというところを詳しく教えてください。

渡辺:一つは「身体的な動き」です。「ジャンケン小僧」は、漫画では露伴とジャンケン小僧が空中を飛んでるんですけど、実際に人間は飛ばないので(笑)。僕自身もそうですけど、原作のファンの方はそのコマが頭に焼き付いていて、それがどう再現されるのかを待っていると思うんです。ただ、それにこだわりすぎてしまうと荒唐無稽になってしまうので、僕自身はコマ割りとか画の力にあまり引きずられないようにとは考えるんですけれども、どこかでそれを想像させるようなことも表現したい。何回も観ていただくと分かると思いますが、一生さんがとても細かい目の動きや手の動きをしていて、それには全部意味があるんです。描かれていることを現実の人間の芝居に落とし込んでいく時に、どこまでそれを再現できるのかを細かくお話していきました。もう一つは「言葉」です。露伴とジャンケン小僧の活字のセリフをそのまま生身の人間が言葉にすると少し浮いてしまうところがあるので、ちょっとした語尾の言い回しや言葉のチョイスの変更で、そういったところが緩和されて見ていただけるように、現場で話しながら進めていきました。

「現場でできることはできるだけ現場でやる」表現のこだわり

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ーー以前、脚本の小林靖子さんにインタビューした際に、第1話の「富豪村」に出てくる露伴の「だが断る」のセリフは、渡辺さんが入れたいと希望していたとお話されていました。「だが断る」は露伴のみならず、『ジョジョ』を代表する名セリフかつ原作の「富豪村」には出てこないセリフですが、相手の一究(柴崎楓雅)に対して「自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事」という露伴のポリシーにならったシチュエーションになっていました。

渡辺:どこかで入れることができればと思っていましたが、闇雲に入れると物語のバランスを崩してしまう。小林さんと相談していく中で、一究に追い詰められた時に言い放つのであれば、構成を崩さずに、しかも露伴のキャラクターもうまく表現できるのは、ということになりました。違和感なくうまくハマったのは、一生さんのお芝居がそうさせてくれたのだと思います。

ーー第2話の「くしゃがら」についても質問させてください。フェンスに寄りかかった志士十五(森山未來)に蝶々が飛んでくるシーンについて、あそこで森山未來さんは蝶々にそっと手をかざします。まず、あの蝶々はたまたま飛んできたのでしょうか?

渡辺:あれはもう偶然です。違うアングルから何回も撮影するので、たまたまあのテイクの時に蝶々が通って、それを使ったという。未来さんもそこをちゃんと芝居に入れてくれた。その辺りのライブ感は面白いなと思っています。

ーー露伴がヘブンズ・ドアーで相手を本にして読むシーンではCGも使われていますが、『岸辺露伴は動かない』ではほぼアナログで撮影されているのが作品全体の特徴でもあります。そこは紙にこだわる「荒木飛呂彦イズム」からということなのでしょうか?

渡辺:僕の好みというか、昔の特撮ドラマの影響でしょうか。僕はいま53歳で、初期の『ウルトラマン』とか『仮面ライダー』を観て熱狂していた世代です。CGのない時代の特撮表現ですが、話がしっかりしていたらそんなことは気にならないし面白いですよね。今はCGで簡単に大掛かりな映像ができますけど、それがCGを見せるためのCGになっているなといつも感じていて。もちろん『岸辺露伴は動かない』でもCGの力は借りていますが、それがCGを見せるためだけの表現にならないようにとはいつも思っています。現場でできることはできるだけ現場でやろうというのがポリシーではあります。

ーー「ジャンケン小僧」のラストは次に希望の持てる美しい終わりだと感じました。

渡辺:厳密には「希望」ではなく、「この状況を受け入れて次に進む覚悟」というのが、荒木先生のメッセージでもあるのかなと思っています。「ホットサマー・マーサ」の「時は不可逆」ということばは――僕らは「早くコロナ前の世界に戻るように」というような言い方をしてしまいますが、それって絶対に来ないんですよ。コロナ前の世界には絶対に戻れない。今起きていることを受け入れた後で、そこから次に進んでいくことが、僕たちがやらなければいけないことだということを荒木先生は言いたいのかなと僕と一生さんは解釈しています。最後は明るいハッピーエンドにはなりますけど、それを「元に戻った」というよりは「これを受け入れて次に進もう」というメッセージに受け取ってもらえたら嬉しいです。

■放送情報
『岸辺露伴は動かない』NHK総合にて放送
第7話:12月26日(月)22:00:~22:54放送
第8話:12月27日(火)22:00:~22:54放送

出演:高橋一生、飯豊まりえ、古川琴音(第7話ゲスト)、柊木陽太(第8話ゲスト)
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作統括:斎藤直子、土橋圭介、ハン サングン
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
写真提供=NHK

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