宮下兼史鷹、『ブラックパンサー』最新作で号泣した理由 「作り物ではないリアルな感動」

宮下兼史鷹、『ブラックパンサー』続編で号泣

 お笑いコンビ・宮下草薙のツッコミとして活躍する宮下兼史鷹。芸人としての顔以外にも、ラジオや舞台など多岐にわたる活躍をしている。おもちゃ収集が趣味、サブカルチャーに精通している無類の映画好きである彼の新連載『宮下兼史鷹のムービーコマンダー』。第3回となる今回は、11月11日に公開された映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の魅力について語ってもらった。

※本稿には『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に関するネタバレが含まれています。

「宮下兼史鷹のムービーコマンダー」第3回『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

チャドウィック・ボーズマンを追悼する映画として

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー

――もともと本作はティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンの訃報を受けて、全世界がその行方を見守っていた作品だったと思います。実際に鑑賞して、その点はいかがでしたか?

宮下兼史鷹(以下、宮下):『ブラックパンサー』というシリーズ自体がどうなってしまうのか、僕たちは不安と期待半々くらいで待ち望んでいたと思います。やはりボーズマンの存在は大きかったし、ブラックパンサーといえば彼しかいない、というのが正直な感想でした。本作を観て、まず僕はオープニングで食らいましたね。マーベルの映画って最初に「MARVEL STUDIOS」というロゴが出てきて、普段はいろいろなマーベルヒーローが映し出されるんですが、今回はボーズマンが演じたティ・チャラ、そしてブラックパンサーで埋め尽くされているんです。しかも、普段あるはずの音楽もなくて、とても静かで、僕はそこでもう号泣しました。思い出しながら今でも鳥肌が立つような始まり方をするんです。やはり、物語の中の死と現実の死がリンクしているので、通常の「物語の中での死」とは比べ物にならないくらい、心にくるものがありました。

――本作を単体の映画として観たとき、そのストーリーについてはどう思いましたか?

宮下:今回のストーリーは、ヴィブラニウムというワカンダと海底帝国のタロカンにしかない特殊な鉱物をめぐる物語なんですよね。そんな中、アメリカ人の大学生リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)がヴィブラニウムの探知機を作ってしまう。そこから彼女を巡って、彼女を殺そうとするタロカン、彼女を保護したいワカンダ、さらにワカンダと揉めている他国の三つ巴に発展する。タロカンとしては探知機を作った女の子を消して、できればワカンダと協力して地上を支配したいと思っている。ワカンダはというと、他国を攻撃したいとは考えていない。ただ平和に暮らしたいだけなのですが、海の帝国から「お前たちが協力しないなら、こちら側も武力行使に出るよ」と脅されている。このどうしようもない事態の中で、シュリ(レティーシャ・ライト)が攫われるんですよね。そこでタロカンの内情を知って、彼らに感情移入をしだしたときに物語がさらに拗れていって、最終的にタロカンとワカンダの戦いに発展してしまう。今話しているだけでも、ヒーロー映画の話をしているとは思えないようなストーリーで、本当にしっかり国と国の争い、そしてそのなんとも言えない虚しさが表れている映画でした。

タロカン、そしてネイモアに感じた恐怖

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー

――本作のヴィランであるネイモア、そして彼の統治するタロカンはいかがでしたか?

宮下:ネイモアは初登場が空を飛んでいるシルエットで、そのあとシュリと女王の前に現れるシーンがありますが、あそこはもう『ほんとにあった怖い話』(フジテレビ系)を観ているのかと思うくらい怖かったです(笑)。海の帝国サイドに関しては、意識的にこちらに恐怖を与えるような描き方がずっとされている。ただ、海の帝国を知っていくと、タロカンにもいろんな事情があるし、そこに住んでいる人々もいるということが分かってくる。その時に、「この戦いに正義なんてないじゃん」って気付かされるんです。この“正義がない戦い”って、僕たちの知っているものの中で一番近いものが「戦争」なんですよね。「戦争」をヒーロー映画で描いているんです。そこで、シュリがどんな決断をするのかが肝になってくる。やはり「戦争」というものの、どこに感情を寄せたらいいかわからないという感覚が本作の中でずっと続いていて、正直僕は観ていて苦しかったです。ヒーロー映画は明確な悪がいて、それに向かって戦う作品が多い中、本作は今までと違うこと、今までと違うヒーロー像を見せようとする意欲がすごく伝わってきました。それでいて1作目の『ブラックパンサー』の評価を上げるような作りにもなっている。ヒーローが単純なものではないということを、痛烈に感じさせる作品になっていたと思います。

ーー海のシーンでは、音楽も終始不気味な雰囲気でした。

宮下:僕が一番好きだったのは、タロカンの人たちが海の生物を手なずけて引き連れてやってくるところですね。シャチとかクジラとかに乗って現れる。それも、本来だったら優雅な感じになるはずだし、クリスチャン・ラッセン的な海洋生物の登場を想像すると全然違ってダークなんですよね。怖い。恐怖を感じる。でもそれって海に潜ったときに、本当にデカい海洋生物に出会ったときの人間の気持ちに似ているんじゃないか、と僕は思うんです。海を恐ろしく描いているところが、僕はすごく良いと感じていて。むしろ海の帝国の内情を描くパートがなくてもいいくらい、タロカンを「怖い」と思わせたままにしておけばいいと感じてしまうほど、その描写が気に入りました。そういった映像美もあって、3時間近くある映画ですが、全く長く感じませんでした。

ーーそんな中で、シュリはネイモアと出会い、タロカンの人々の生活を目の当たりにすることになります。ティ・チャラ王が存命でも、あの状況で決断を下すのは難しかったのではないでしょうか。そういったことを踏まえて、前作から本作で変化したシュリについてはどう思いますか?

宮下:そうですね。本当にシュリというキャラクターは、自分の周りから大切な人がいなくなってしまって、一歩間違えるとダークサイドに落ちてしまうくらい精神的に落ちている状態なんです。ティ・チャラという存在って、高潔すぎるくらいに清廉潔白な、本当に綺麗な王なんですよ。そして物語が進めば進むほど「もしこの場にティ・チャラがいたら」というこちらの思いを際立たせるような展開が多かったです。でも、そんなティ・チャラ亡き状況で、シュリが決断を下さなければいけなくなる。この追い詰められ方は、先ほど僕が言った「観ていて苦しい」の根幹でもあります。シュリに感情移入すればするほど、本作は観ていて苦しくなる。シュリは今まで女王からもらった言葉、そして兄からもらった言葉、彼と歩んだ思い出、それらを振り返りながら、どんなヒーローになっていくのか。最後に決断を迫られるシーンで、僕は彼女がどちらを選んでも仕方ないことだなと正直思いました。最悪な結末を迎える決断をしたとしても、それは国を守るために正しいことだし、かと言ってシュリが“僕らが望むヒーロー”としての立ち振る舞いを意識した決断をしたら、それはそれで「その後、大丈夫なのか」と思ってしまう。どちらにせよ、どこか歯切れの悪さを感じさせるんですよね。どんな決断でもうまくいかないという、非常に残酷な物語でもありました。僕らはシュリが下した決断を見守っていくしかないんです。次の作品が楽しみになる終わり方ではあるし、やはり“次”を準備しているなと感じさせる描写がたくさんありました。そういう意味で、シュリのブラックパンサーは今後も期待できるヒーローになっていくと思っています。

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