宮下兼史鷹、『ブラックパンサー』最新作で号泣した理由 「作り物ではないリアルな感動」

宮下兼史鷹、『ブラックパンサー』続編で号泣

シュリへの感情移入、現実とリンクするからこその感動

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー

ーーシュリは物語の中盤でアンジェラ・バセット演じる母・ラモンダ女王も目の前で殺されてしまいます。彼女の死も衝撃的な展開でしたね。

宮下:本作は「ティ・チャラの死」という衝撃的な展開から始まるので、最初から死に向き合わなければいけない形で進んでいくんですよね。そんな中、さらにシュリが唯一、正直でいられる最も近い存在だった母親が死んでしまう……。でも、あの女王の死がなければシュリはブラックパンサーになっていないんじゃないかな、という思いもあります。物語における人の死が与える選択肢を考えると、彼女の死はやはり必要だったんですよね。ティ・チャラとラモンダが死んでしまったからこそ、シュリは自分自身と向き合わなければいけなくなった。本当にやらなければいけないことは何なのか、そして責任を背負ったときにどういう人間にならなければいけないのか、について考えるんです。もともと彼女って少しフワフワしていて、自分がどうならなければいけないのか、定まっていないキャラクターだったんですよ。ただ、それってとても等身大で、そういう人はこの世の中にたくさんいると思うんです。そんな中で、自分の運命を変えるような衝撃的な出来事があるからこそ、衝撃的な決断もできるというか。本作はそこを描く美しい物語だなと思いました。

――もう一つのサプライズ、前作のヴィランだったキルモンガーの再登場についてはいかがでしたか?

宮下:そもそも『ブラックパンサー』の続編で誰がブラックパンサーになるのか、みたいな話は以前から界隈で盛り上がっていて。シュリを筆頭に、実は女王がなるのではないかとか、オコエがなるんじゃないかとかいろいろ声が上がっていました。そこで僕が推していた後継者が、実はキルモンガーだったんです。『ブラックパンサー』でのキルモンガーのカッコよさは、MCU屈指だと思います。痺れる悪のカッコよさというか、ティ・チャラを食ってしまうくらいキャラが濃くて、いいヴィランだったんですよ。それに、彼は王になったら非情な決断ができるタイプだし、例えば、国と国が戦争状態にある時は、ああいう王の方が手腕を発揮するんですよね。だから海の帝国との戦いになったとき、「やっぱりこれ、キルモンガーがブラックパンサーになるんじゃないかな」という期待を持ってしまった。ただ、そんな中で彼がああいった形で出てきてくれたことはとても嬉しかったです。まあ、シュリは相当ショックでしょうけど(笑)。もう誰にも言えないですもんね、あんなこと。なので、彼女の気持ちを思うと複雑ですが、ファンからすると「ここで出てくるのか!」って興奮しました。しかもいい出方というか、しっかりと悪を貫いて出てきてくれるところに痺れました。やはりティ・チャラの高潔すぎる部分を腐しながら、「王とはこうあるべきじゃないか」というのを短い時間で説く。キルモンガーというキャラクターがどういうものだったのか、そして、シュリの決断にそれが影響を及ぼしてしまうのではないかという怖さも表現できていた。僕らの思っていない形で攻撃してきたな、と思いました。精神攻撃じゃないけど、「まだお前攻撃してくるか、しぶといなあ」って感じがして、よりキルモンガーを好きになりましたね。

ーーそういったあらゆる苦難を乗り越えたシュリが迎えたラストシーンはかなり力強いものだったと思います。そのシークエンスを含め、最後に改めて本作を振り返ってみていかがですか?

宮下:シュリが映画の最後に儀式として、葬式で自分の着ていた服を燃やすことで、新しい出会いを果たすことができるという、女王の言葉通りの展開になっている。そしてティ・チャラのことを思って泣くシーンがありますが、あれはもう演技の枠を超えていると思って観ていました。現実でもボーズマンは、彼の病気を周りに知らせていなかったんですよね。それも物語の中のティ・チャラとリンクしていて……あの泣いているシーンは演技というより、ドキュメンタリーに近いものでした。でもこれって、今後やろうと思ってできる演出でもないし、やろうと思ってやることでもない。重大なことが起きているというか、「すごいシーンを今観ているな」という感覚があって、僕はもう本当に震えながら泣きました。しかも、あそこで終わりかと思いきや、最後の最後に「我らの友人、チャドウィック・ボーズマンに捧げる」っていう一言で畳み掛けてくる。あの文字が出たとき、体を揺すって泣きました。この映画は、出そうと思って出していない価値があり、作り物の感動ではないリアルな感動がある。今年観た映画の中で、強く心に残る作品になったなと思います。

宮下兼史鷹のムービーコマンダー

お笑いコンビ・宮下草薙のツッコミとして活躍する宮下兼史鷹。 サブカルチャーにも精通している無類の映画好きである宮下が、話題の新…

■公開情報
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
全国公開中
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©︎Marvel Studios 2022

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