『東京サラダボウル』は“東京の今”を反映した作品だった 実写で描く“本物”の多人種社会

“東京の今”を反映した『東京サラダボウル』

 NHKドラマ『東京サラダボウル』は、東京の今を反映した作品だ。東京の街中で外国人を見かけない日はない。タイトルの「サラダボウル」は、アメリカのように多人種が共生している国に対して比喩表現として使用されるものだが、東京に関してはこの単語を用いても、すでに違和感がない状態にあると言える。

 第1話で主人公が言う「東京に暮らす外国人の数は68万人、東京の人口の4.8%、数にすればそれだけだけど、確かに彼らはここにいる」の言葉通り、そんな彼らがどのような生活を送っているのか、そのリアルに迫る作品だ。

本物の外国人キャストと本物の街が作る説得力

 マンガの実写化は、とかくいろいろと批判されがちなのだが、本作は実写の良さが存分に活かされている作品と言える。

 実写化するなら、実写ならではの表現を追求するべきだ。実写がアニメーションやマンガと比べて、表現として優位な点は、本物を映せるということに尽きる。本物の持つ説得力こそが実写作品のポイントだ。

 本作は、東新宿署の国際捜査係で勤務する刑事・鴻田麻里(奈緒)と中国語の通訳人・有木野了(松田龍平)の2人を中心に、外国出身者に向けられる偏見、置かれた苦しい状況や犯罪に巻き込まれやすい環境などを、つぶさに描き出す。そのため、本作には外国出身者や母国語が日本語でないキャラクターが数多く登場するが、それらの役に本物の外国出身者などを起用している。日本語以外に中国語やベトナム語など、多くの言語が飛び交う作品になっており、本物がもたらすリアリティが、現実に対する解像度を上げてくれるのだ。

 そうした登場人物たちが実際の東京を風景にして登場する。歌舞伎町や新大久保など、外国人が多い街でもロケをしており、今現在の東京の風景に違和感なく溶け込んでいる。そうした中で外国出身者たちの生活が描かれるので、彼らの生活に入り込んだような感覚を視聴者に与えてくれる。

 こうした本物の役者と本物の風景によってもたらされる効果によって、絵で表現される原作マンガ以上に、これが今の東京なんだという説得力を強く表現することに成功している。本作は、実写化しがいのある作品だったと言える。

ボランティアとの戦いはどうなる?

 本作は一話ごとに異なる事件が発生し、それを解決してゆく鴻田と有木野の活躍を描く構成になっており、いくつかの事件の背後に人身売買ビジネスを組織する「ボランティア」と呼ばれる男の暗躍がある。このボランティアとの戦いがシリーズを通して大きな物語として描かれる。

 赤ん坊誘拐事件とおむつの万引き騒動が描かれた第3話では、在留期限が切れて故郷に帰るすべのない中国人に、買い取った戸籍で偽のパスポートを作らせ、誘拐された赤ん坊と一緒に出国させようとするなど、非合法なビジネスに手を染めていることが描かれる。その後、捜査を続ける警察を尻目に、手掛かりと思われた中国出身の女性が殺害される事態に発展。鴻田は責任を感じ「後には引けない」と覚悟を決めていく。

 このボランティアとの対決は、原作マンガでは決着がつかないままに終了を迎える。原作では、有木野の心のわだかまりが解放に向かい、鴻田が警視庁本庁に出世、今後もボランティアを追い続けるという形で完結する。テレビドラマ版は原作以上にボランティアの存在感は大きく描かれ、出番も増えている。なにやらつながりがあるらしい刑事の阿川(三上博史)に対して強烈な脅しをかけるなど、重要と思われるシーンも追加されている。

 このボランティアとの決着が、テレビドラマではどのように描かれるのかが注目される。原作のように決着がつかないのも、リアルではある。国際犯罪の解決は容易ではないからだ。とはいえ、鴻田の後には引けないという覚悟の行方がどうなるのか、やはり気になるところではあるので、ボランティアとの決着がオリジナル展開で描かれるのもまた悪くないのではないかと思う。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる