ヴィラン不在? 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が前作から継承したバトン
いよいよ11月11日に日本公開された『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。神秘の国ワカンダと謎の海底王国タロカンの大戦争、3人のヒーローたちによるスーパーアクションとスケールの大きなエンターテインメントでありながら、この物語の核は愛する息子と最愛の兄を失った母と娘の物語です。
映画のレビューというのは、あくまでも出来上がった作品そのものに対して評価するべきものであり、要はその映画が作るのにいかに大変だったか的な裏側の事情を加味することは意味がないかもしれません。しかし、この作品についてはスタッフ&キャストともに素晴らしい選択と仕事をしたと思います。それに対して敬意を表したい。
言うまでもなくマーベル・シネマティック・ユニバース=MCUで、ブラックパンサーことティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマン氏はこの作品を作る前に天に召されました。
主役を演じる主演俳優を失ってしまった。こうした状況の中で新作を作る、ということがいかに大変なことか。僕はボーズマン氏の代役を立てて、ブラックパンサーを撮ったとしてもファンはそれなりに受け入れてくれたと思います。でも、マーベルは代役やCGなどを使ってブラックパンサーの続編を作る、という選択をしなかった。映画の中でもティ・チャラが突然の死を迎えたという最も難しいシナリオを選んだのです。
そう、現実世界の中でボーズマン氏を失った悲しみと劇中のティ・チャラともう会えないという哀しみがオーバーラップするわけです。しかしこれは一つ間違えれば、ボーズマン氏の死を利用したともとらえられてしまう。
そうしたリスクを冒しながらも、とても感動的で「次なるヒーローへバトンを渡す」という見事な交替のストーリーに仕上がっているんです。MCU恒例のエンドクレジットでも最もエモーショナルでなんともいえない余韻にひたれます。
では、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』はエモいだけの作品なのか? そんなことはありません! MCUならではのアクションエンターテインメントになっています。先ほど「3人のヒーロー」と書きましたが、まずは海底王国タロカンの王にして超人のネイモア。捉え方によっては本作のヴィランなのですが、僕は悪党とは思えなかった。次にアイアンハート。天才少女がアイアンマンを模して作ったスーツを着て活躍。そして新ブラックパンサー!