梅田修一朗×関根明良×内田雄馬、『映画 先輩はおとこのこ』を経て考える“自分らしさ”

2024年に放送されたテレビアニメ『先輩はおとこのこ』の待望の続編が、『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』(以下、『映画 先輩はおとこのこ』)としてスクリーンに登場。テレビシリーズから成長した3人が、劇場という新たな舞台でどんな選択をするのか。その姿を目にできるのは、ファンにとっても感慨深い瞬間となるだろう。
春休みに入り、まことは次第に咲のことを意識し始める。一方の咲は、ハワイで暮らす父親に会いに行き、「一緒に暮らさないか」と提案される。父と母のどちらを選ぶのか、自分を特別に思っているのは誰なのか、悩み続ける咲。そして、3年生になったまことと竜二もまた、それぞれの進路を考え始めていた。
「自分らしさ」「好き」「特別」ーー本作には、さまざまなテーマが織り込まれ、一言では語り尽くせない繊細でやわらかな魅力が息づいている。そんな本作で声優を務めた花岡まこと役の梅田修一朗、蒼井咲役の関根明良、大我竜二役の内田雄馬に、映画のアフレコ現場の様子や、作品が描く複数のテーマについて、じっくりと語ってもらった。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】
『映画 先輩はおとこのこ』が描いた“成長”と“選択”

ーーテレビシリーズから観ていた視聴者にとっては、咲の選択の一つの答えが描かれた作品になったのではないかと思います。本作のシナリオを読んだ時の感想を聞かせてください。
関根明良(以下、関根):今作の映画の台本は、練習中からすでに泣いてしまうシーンがいくつもありました。実際に収録で泣いてしまうと、その後のシーンが大変になることもあるため、「頑張れ、自分……!」と何度も思いながら挑みましたが、案の定、大号泣してしまいました。
ーー咲は家族との掛け合いのシーンも多かったのではないでしょうか。
関根:収録の前に、おばあちゃん役のさとうあいさんに「すみません、今日は泣いてしまうかもしれません……」と先に謝っていたんですが、「あそこは仕方ないよ」と優しく言ってくださって。収録の合間では、いつもたくさんお喋りをさせていただきました。そのやり取りのおかげで、緊張をほぐしていただいた気がしています。泣いてしまった際に、さとうさんがそっと背中を撫でてくださったのが、とても心に残っています。改めて素敵な現場だと思います。
梅田修一朗(以下、梅田):おすすめののど飴とか、教えてくれましたよね!
関根:そうですね! テレビシリーズの時からとにかくあたたかい現場でした。

ーー内田さんはいかがですか?
内田雄馬(以下、内田):竜二は、自分の気持ちを整理して、まことの迷いや悩みに寄り添っているように感じました。だからこそ、ストレートに2人のことを思いやっているように思いました。今回の竜二は「そばにいるから、、頼れる時は頼ってほしい」という気持ちも強かったのかなと。そういう意味では、本当に「見守る」存在だったのかなと感じています。
ーー『映画 先輩はおとこのこ』では、キャラクター同士の関係性や状況にさまざまな変化がありました。映画の中で描かれる“変化”について、演じる側として皆さんはどう捉えているのでしょうか?
梅田:まことにとっては、竜二や蒼井さんとの関係だけでなく、お母さんとの関係や、おじいちゃんとの交流もありました。竜二との何気ない会話の空気感も変わりましたし、まこと自身も蒼井さんへの気持ちと向き合うことで、大きく成長したと思います。いろいろな人との関係が変化する中で、個人的には「家に帰ってお母さんに笑いながら話せるまこと」という姿に成長を感じましたね。まことにとって、心の中にしっかりとした軸ができて、笑顔になれる要素が増えたのかなと。でも、それはまことが自分で頑張ったからこそ得られたものだし、周りの人が支えてくれたからこそ、そういう変化を迎えられたのだと思います。

関根:咲ちゃんに関していえば、テレビシリーズではいろいろな問題を抱えながらも、まこと先輩と師匠に背中を押されて前を向く姿が描かれていました。今回の映画では、テレビシリーズでの問題がより明確に描かれ、咲ちゃんの抱えていたものがはっきりと見えてきたと感じます。咲ちゃんにとって難しい壁でしたが、周りのみんなのおかげで乗り越える姿を見れて、咲ちゃんを演じる身としてはこの映画があって本当に良かったと思います。
ーー特に咲は、思わずグッとくるような印象的なセリフも多かった印象です。
関根:そうですね! おばあちゃんが「言ってくれなきゃわからないよ」と伝えてくれたシーンは、特に印象に残っています。咲ちゃんはずっと自分の気持ちを飲み込んできた子でした。そんな彼女が、今回の映画ではしっかりと自分の思いを伝えることができました。人によってはなんてことのない一歩かもしれません。でも、今まで出来なかった「思いを言葉にする」という一歩を踏み出した。彼女の姿と笑顔を見れたことが、とても嬉しかったです。

内田:竜二は、家庭環境がすごく良くて、両親とも仲が良く、温かい家庭で育ってきました。でも、彼自身の「好き」という気持ち、本音をどう扱うかについては、ずっと迷いがあったんです。本当にこれでいいのか? ちゃんと自分の気持ちを認めていいのか? そんな葛藤がありました。だけど、自分の大切にしたいことと向き合い、少しずつ気持ちを整理していくことで、「これをどこかにしまい込まなきゃいけない」「隠さなきゃいけない」と思うことが減っていったんだと思います。
ーーなるほど。
内田:もし、そのまま気持ちを抑え込んでいたら、いずれどこかで爆発してしまったり、心が疲弊してしまったかもしれない。でも、竜二はそうならなかった。自分の気持ちをしっかりと認めて、まことと話すことで、それを受け止めてもらえた。この経験は、竜二にとってすごく大きかったと思います。
梅田修一朗「遠慮しすぎないことも大事」
ーー咲やまこととはまた少し事情が違いますが、竜二もまた、気持ちを言葉にすることで変化した人物ですよね。
内田:もちろん、すぐに変われるわけではないし、怖さもまだあるのかもしれません。でも、「自分の気持ちを受け止めてくれる人がいた」という事実が、彼にとって未来に向かう力になったんじゃないかなと。自分一人では作れない「自分」がある。誰かと関わることで、自分らしくなれる。だからこそ、これから先、自分はどうしていくのかを考えることができるようになったんじゃないかと思います。そういう意味では、竜二は本当にちょっとずつ成長していてますよね。そして、“本当にいいやつ”だと思います。彼が自分の気持ちに整理をつけて、前を向けるようになったことが、個人的にはすごく嬉しいですし、「よかったな」と思いながら観ていました。

ーー先ほど咲とおばあちゃんとの掛け合いのシーンの話もありましたが、本作では「思いを言葉にすること」の難しさと大切さが描かれています。皆さんが悩んだ時は、人に話すことと自分で向き合うことのバランスをどのように取っていますか?
梅田:僕自身は、基本的に悩みを自分の中で解決しようとすることが多いのですが、誰かが寄り添おうとしてくれた時は、素直に頼るようにしています。誰かが耳を傾けてくれたり、心配してくれた時は、遠慮しすぎないことも大事なのかもしれません。
関根:私も、基本的には自分で向き合うことが多い気がします。悩みの大小によっての部分もありますが。ただ、どうしても堂々巡りになってしまっていると感じた時は、人に意見を求めるようにしています。ただ、そのタイミングって、大抵「もう無理!」ってなっている時なので、バランスが取れているかと言われると微妙ですね(笑)。結局、大人になっても試行錯誤しながら生きているんだな、と日々実感します。
内田:世の中には、一人では解決できないこともありますよね。特に人間関係はそうで、コミュニケーションの正解は人それぞれ。自分の考えが相手に合うとは限らないからこそ、たくさん話をして、お互いが心地よくいられる形を探していく必要があると思います。とはいえ、自分の気持ちを素直に話すのが怖い時もあるじゃないですか。無理をせず、少しずつでも歩み寄ることが大切なのかなと。そして、一人で悩みすぎて心が壊れてしまう前に、誰かに頼れるようになることも、とても大事なことだと思います。