中島健人に惹かれる理由は“瞳”にあり “ケンティー”とは別人の『知らないカノジョ』の凄さ

元「Sexy Zone」のメンバーで、愛称はケンティーの俳優・中島健人。吸い込まれるように澄んだ黒目に、整った鼻筋。大きな口を開くと、白く整った歯を覗かせ「セクシーサンキュー」「サンキューデリシャス」と、カメラ目線で自信満々に語る姿に、魅了された人は多いのではないだろうか。
そんなバラエティ番組で見せてきた姿とはまったく別人のような魅力を放っているのが、2月28日に公開された映画『知らないカノジョ』だ。
『知らないカノジョ』は、順風満帆に小説家として活動していたリク(中島健人)が、ある日突然、妻のミナミ(milet)と立場が逆転した世界線で生きることになり、本来の人生を取り戻すために奮闘する姿を描くラブストーリー。

中島は主人公・リクとして、大学時代に出会った女性と交際から結婚、夫婦のすれ違いが生じるまでの8年間を演じている。映画が始まった途端、一点の濁りもない無垢な瞳の彼があらわれ、ハッとする。ケンティーと言えばキリっとした瞳、決め顔のイメージがあったからだろうか。こんなにもピュアな瞳が出せる人だったのかと驚く。そこにいるのは中島健人ではなく、将来に不安を覚えながら過ごす、どこにでもいる普通の学生……。紛れもない「大学生のリク」だった。
大学でリクは、将来の伴侶となるミナミと出会う。そのシーンが本当に「美しい女性に、一目惚れをした男性」そのものといった風に、瞳がきらきらと瞬く。その後も、リクの瞳は状況にあわせてころころと表情を変えていく。パラレルワールドに迷い込み、不安や葛藤を抱えながら過ごすシーンでは、オドオドとした視点の定まらない瞳で心理描写を表現。人生を取り戻そうとピンチに挑む際には目に鋭い光が灯り、シーンに緊迫感が生まれる。
ミナミとの出会い・デートシーンでは、女性を温かく見守るような眼差しのリクが存在していた。その優しい瞳は吸引力があり、見つめられると溶けてしまいそう。瞳の演技を見るなり、私は役者「中島健人」の凄さに舌を巻くと同時に、「王子様」「二次元キャラを演じるのが上手い人」とだけ捉えていたことをすっかり恥じた。
思い起こせば、中島健人は地上波のドラマ・映画では、癖の強めな役を演じる機会が多かった。真逆の成長を遂げた2人の恋模様を描く『彼女はキレイだった』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)では、「プロ意識のない人間は必要ない」などと毒舌を振りまく。『リビングの松永さん』(2024年/カンテレ・フジテレビ系)」では「おい、ちょっと待てよ!」「寄り道しないで帰れ」と、命令口調のアラサー男子を演じた。その他にも、最悪の出会いから距離を縮めていく映画『黒崎くんの言いなりになんてならない』(2016年)においても、彼は俺様キャラを巧みに演じていた。
俺様キャラは一歩間違えると火傷しがちだ。だが彼はサラリと俺様を憑依させるので、嫌味がない。二次元キャラを違和感なく演じられるのも、中島健人の演技力もさることながら、彼が持つイメージである「漫画から飛び出してきたかのような、王子様的要素」が、ストーリーにマッチしているからだろうか。

けれど『知らないカノジョ』を観て、彼を見る目が180度変わった。叫び、愛情、優しさ。繊細な心の動きを、目で語るのがこんなにも上手い役者だったのかと。とくにミナミを思って涙を見せるシーンなど、台詞のないシーンの演技には見入るものがあった。
いや、あれは本当に演技なのだろうか。ミナミが不安で手を震わせる時、勢いよくお酒を飲んでしまう時。彼女を見守るようなあたたかい眼差しのリクは、本当にミナミに恋しているようにしか見えない。
そう、彼の「目の演技」には、嘘がないのだ。そこが彼の凄みではないだろうか。ケンティー、いや中島健人が恋愛ドラマ・映画に欠かせない理由。それは作品にきちんと向き合い、役を自分の中に召喚するプロフェッショナルだからなのかもしれない。そのあまりのリアリティに、私たちは役の中で「恋」をする中島健人を通じて「現実」を忘れ、作品の世界へと没入していく。そして、恋をした瞳の彼と出会い、惹かれてしまうのだ。




















