『ザ・ウォッチャー』が現在を映し出す作品となった理由 人間の執着心のおそろしさ

現在を映し出すドラマ『ザ・ウォッチャー』

 手紙の犯人をめぐる推理は二転、三転し、視聴者を幻惑していくが、本シリーズにとって重要なのは、その真相よりも、人間の執着心のおそろしさを描くことだ。登場人物が囚われるのは、“謎”そのものに対する不安や探求心であり、家に対する憧れである。

ザ・ウォッチャー
Eric Liebowitz/Netflix © 2022

 とくにアメリカでは、古くから中産階級を対象に、郊外に一戸建てを買わせようとするキャンペーンが続き、映画やドラマでも、このようなライフスタイルが焦点となることが非常に多かった。そんな文化のなかで、適度な自然に囲まれた大きなマイホームに家族で住むというのは、万人にとっての幸せの象徴、成功の象徴となっているところがある。だからこそ最大限に無理をして高額のローンを組み、勤め先まで長距離通勤したり、手入れの面倒臭い芝生の庭や、枯葉がたまってしまうプールを手に入れようとするのである。

 そしてそんな国民的欲望は、2008年のリーマンショックの主要因となる、低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)の破綻を呼び込むことになった。その後、アメリカの住宅問題は悪化の一途を辿り、家を持たずにキャンピングカーで暮らしながら季節労働に従事したり、臨時の仕事を探して広大な土地を周遊する高齢者の姿を描いた『ノマドランド』(2021年)が、アカデミー賞作品賞を受賞するに至ったのだ。

ザ・ウォッチャー
Courtesy Of Netflix © 2022

 経済格差が顕著になっていくなかで、良い住環境を手に入れることは、時代とともに難しくなってきている。そんな状況下で、“素敵なマイホーム”という、過去の幸福のイメージ自体はたいして更新されていないのは、日本も同じである。欲しいものがどんどん手に入れられなくなっていく……そんな耐え難いギャップが、人間の怒りや不満、異様な執着心を生み、怪文書がポストに投函される事態の背景となったのではないだろうか。

 そういった意味において、この時代ならではといえる事件を描いた本シリーズ自体もまた、劇中の歴史ある邸宅同様に、一つの象徴的作品になったといえるだろう。

■配信情報
『ザ・ウォッチャー』
Netflixにて配信中

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