2024年の年間ベスト企画
今祥枝の「2024年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 『SHOGUN 将軍』が象徴する時代の変化
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2024年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第13回の選者は、映画・海外ドラマライターの今祥枝。(編集部)
1. 『SHOGUN 将軍』(ディズニープラス)
2. 『私のトナカイちゃん』(Netflix)
3. 『ザ・ディプロマット』S2(Netflix)
4. 『リプリー』(Netflix)
5. 『旋風』(Netflix)
6. 『Pachinko パチンコ』S2(AppleTV+)
7. 『セイ・ナッシング』(ディズニープラス)
8. 『サムバディ・サムウェア』S3(U-NEXT)
9. 『THE PENGUIN-ザ・ペンギン-』(U-NEXT)
10. 『ミスター・ベイツvsポストオフィス』(AXNミステリーチャンネル)
Netflixを筆頭とするOTTの普及により、以前から言われていたことではあるが2024年は肌感覚としても「世界が一つの市場となった」ことを実感した年だった。
言うまでもなくその象徴が『SHOGUN 将軍』だ。ハリウッド制作で日本人を主体とし、日本語の比率は7割を超えるという異例の時代劇。真田広之の血の滲むような努力の軌跡と本作への尽力なくしては成立し得なかった本格的な時代劇は、『ゲーム・オブ・スローンズ』などの歴史ファンタジーと比較される向きも強かった。実際に、真田が繰り返し口にしていた「オーセンティシティ(本物志向)」が広く流布したこともあり、逆に日本人からすればハリウッドらしいスケール感のある時代劇にはやや違和感を覚えた人も少なくなかったと思う。
しかし、例えばこの時代の日本では片膝を立てた座り方が一般的だったが、日本の時代劇では正座が浸透しているため、そこは逆に日本人に違和感のないように正座でいくことをプロデューサー陣に説得するなど必ずしも時代考証にこだわったわけではない面もある。そのような「日本の時代劇」へのリスペクトと日本人以外の製作陣の日本文化に対する真摯かつ柔軟な姿勢があってこその作品でもある。互いの文化に対する理解を最大限に示した上で、言語や文化の描写において妥協もありつつ、娯楽としてどの国の人にも楽しめるような作品として成立させることのハードルの高さは計り知れない。
『SHOGUN 将軍』を「日本コンテンツ」とか日本の手柄のようにもてはやす日本のメディアにはうんざりするが、一方で受け手にとっては、もはやどの国が作ったか、何語の作品なのかといった区別を必要としない時代なのかもしれないとも思う。各国の作品が配信プラットフォームの一覧に並列されたとき、それがハリウッドなのか韓国なのかヨーロッパなのか南米なのかといった区別は、私自身も以前なら国別で意図して鑑賞することも多かった。だが今は『百年の孤独』(吹替版あり)が目に入ればああもう配信されたのかと思って視聴するし、話題の韓国ドラマは迷わず観る。もちろん面白くなければ脱落する。当たり前といえばそうなのだがスターのネームバリューやハリウッド作品か否かではなく、より顕著に面白いか面白くないかが視聴の基準になる時代になりつつあるのではないだろうか。
そもそもハリウッドに関していえば、そこまで求心力がなくなっていることは今に始まった話ではない。しかし「ハリウッドの地盤沈下、空洞化」の傾向が顕著になった今年、OTTとローカルの公共放送などの共同制作は加速しローカルに資金が流れ、反対に勢いのある韓国や中華圏ほか各国作品のポテンシャルの高さが加速度的に世界の視聴者に発見されつつある時代に、ハリウッド中心主義ではいられないのは必然なのだろう。
さて、マイベスト10に話を戻そう。1位と2位は、自分の好みという以上に2024年を代表する作品として挙げた。後者は製作の過程で色々と問題を含んでおり手放しで賞賛できかねるという点で迷ったが、女性ならバッシングされがちな「野心家のワナビーが性犯罪にあう物語」を男性に置き換え、ジェンダー、セクシュアリティ、共依存、メンタルイルネスといった多くの要素を取り入れた意欲作。#MeTooの流れの一連の作品群のある種の到達点ではないだろうか。