MCUフェーズ4、なぜファンから批判が集まるのか フェーズ5以降に期待できること

MCUフェーズ4にみるファンの乖離と原因

インフィニティ・サーガを終えて迎えた倦怠期

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(c)Marvel Studios 2019

 『エンドゲーム』によって訪れた一つの最高潮。ファイギは明らかに次のサーガに向けて、また着々と新たなキャラや世界を紹介する必要があったが、その理想的な方法もコロナウイルスのせいで打ち砕かれる。そこで、新たなマーベルファンを獲得するアプローチ……つまり、これまでのMCU作品と関係性が少ない単発的な作品を強く打ち出した。これは、先述のような『エンドゲーム』後のMCUファンの気持ちを保ち続ける“グラデーション戦法”とはむしろ真逆をいく。もちろん、狙い通り『エターナルズ』や『シャン・チー』などは従来のMCUファン以外の観客に、新たな視点で評価された作品もあった。しかし、MCUファンはもうジャンキーのごとく、またあの『エンドゲーム』の興奮をすぐに味わいたい気持ちがあって、常に“ご褒美”を求めている状況だ。ただ、そこでファイギはフェーズ4において“本当に良い物語”ではなく、その場しのぎの快楽とも言える“イースターエッグ&カメオ出演”に力を入れて、どうにか従来のMCUファンの興味を保とうとしたように感じる。

 『ワンダヴィジョン』や『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』、『ロキ』などの初期のドラマシリーズは、この点において「良い物語」を提供できた、見応えのある作品だったように思う。そこには、これまで築き上げられたキャラクターアークが一つの区切りや転換を迎える動きがあり、見守り続けてきたファンにとっても“理解できる”、またはキャラクターへの愛着や理解が深まるものになっていた。しかし、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では『ワンダヴィジョン』で悲壮感に包まれたワンダへの救済がなかったり、『ソー:ラブ&サンダー』ではようやくジェーン(ナタリー・ポートマン)が再登場したかと思いきや呆気なく退場させられたり、前述の丁寧なキャラクターアークを足蹴にする脚本も見受けられた。そうすることでしか、ドクター・ストレンジやソーの成長を描くことはできなかったのだろうか。これまでのMCU作品は、それ以外にも何通りの道筋を見出してきたのではないだろうか。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

 そんな中で唯一と言っていいほど、「良い物語」と「良いキャラクターアーク」を達成するだけではなく、ファンの想像を遥かに超えた傑作になったのが『ノー・ウェイ・ホーム』だった。しかし、それはMCUというより、スパイダーマン映画シリーズにおいての達成に近く、ドクター・ストレンジも登場するがかなり独立した作品になっているため、やはり“フェーズ4”への貢献にはなってない印象。MCUファンにとって『エンドゲーム』以来の最高潮を味わうことができたが、その後の作品が『ムーンナイト』という全く関連性のない新作だったので、その熱を持続するのは難しかったのかもしれない。

 『ムーンナイト』も『シャン・チー』も『エターナルズ』も『ミズ・マーベル』も、作品としては面白いが、やはりどうしても『エンドゲーム』の倦怠期が強すぎる。特に『シャン・チー』はフェーズ2などで登場していたら、今よりももっと熱を持って受け入れられたはず。ドラマシリーズにおいては、“全6話方式”のせいで中弛みしやすくなっていて、それぞれを映画作品として発表していたらまた評価は違ったのではないかと思う。マーベルのクリエイターが、コンテンツ過多のため圧迫されているなど労働環境の悪化が最近話題にもなっていたが、マーベルの重役陣は多くの作品を出すことが、決してクオリティの高い作品を出すことになっていないことに早く気づくべきかもしれない。

明らかになったマルチバース・サーガ 全ては『シークレット・ウォーズ』のために

 ここまでフェーズ4における問題点を考えてきたが、ついにサンディエゴ・コミコン2022でフェーズ5、フェーズ6までのロードマップが明かされ、それらが「マルチバース・サーガ」と呼ばれるものであることがわかった。そして、「インフィニティ・サーガ」における『インフィニティ・ウォー』や『エンドゲーム』に近い『アベンジャーズ』作品が、フェーズ6に2作登場するとのこと。その名も『アベンジャーズ:カーン・ダイナスティ(原題)』(2025年5月2日 米国公開予定)と『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)』(2025年11月7日 米国公開予定)だ。

 『シークレット・ウォーズ』といえば、原作ファンにとっては聞き捨てならない、マーベル史においても最大級レベルのクロスオーバー作品。別次元同士のアースがインカージョンによって滅び、神のような力を得たドクター・ドゥームが新しい世界、バトルワールドを作る……というのがざっくりした物語の入り口になっているわけだが、確かにこれまでのフェーズ4作品で着実に『シークレット・ウォーズ』に必要なヒーローや要素は登場されてきている。ただ単にファンの意識を掴み続けるために、風呂敷を広げに広げてしまった印象が否めないフェーズ4への印象も、これで少し変わるかもしれない。ガントレットを巡る「インフィニティ・サーガ」よりもスケールが大きく、クレイジーなストーリーのため、この後のフェーズ5への期待も高まる発表なのだ。

 また、あの“最高潮”を目指して、MCUの世界を諦めずにいれば想像を絶するカタルシスを、私たちは味わうことができるのかもしれない。

■公開情報
『ソー:ラブ&サンダー』
全国公開中
監督:タイカ・ワイティティ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、テッサ・トンプソン、クリスチャン・ベール、タイカ・ワイティティ、ラッセル・クロウ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:Thor: Love and Thunder
(c)Marvel Studios 2022

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