MCUフェーズ4、なぜファンから批判が集まるのか フェーズ5以降に期待できること

MCUフェーズ4にみるファンの乖離と原因

 サンディエゴ・コミコン2022のパネルで、ついにマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の未来のロードマップが明らかになった。フェーズ4は何と残すところあと2作、ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』と映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を以てして幕を閉じ、『アントマン・アンド・ザ・ワスプ:クワントゥマニア(原題)』がフェーズ5のスタート作品となる。フェーズ4が始まって以来、ずっとアウトフォーカス状態だったMCUのレンズを、少しだけどこにピントを絞ればいいかわかったような、そんな安心感のある発表だったと言えるだろう。しかし、問題は現段階のフェーズ4で多くのMCUファンが若干諦めモードに入ってしまっていることだ。改めて、フェーズ4の問題をこれまでのサーガを振り返りながら考えたい。

新型コロナウイルス感染拡大がフェーズ4に与えた打撃

ムーンナイト
『ムーンナイト』(c)Marvel Studios 2022. All Rights Reserved.

 マーベルの代表、ケヴィン・ファイギは2019年のサンディエゴ・コミコンにて、フェーズ4を中心とする2020年から2021年のスケジュールを初発表した。このとき、彼はこの新たなフェーズを次なるサーガへの土台作りのようにしようと考えていた。フェーズ3までのインフィニティ・サーガが迎えたカタルシス、アベンジャーズ“ビッグ3”のうちアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr.)とキャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)の退場という大きな一つの歴史の終わりは、ファンにとっては至高すぎた。その後の作品は、もちろん絶対的に『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』と比較されることは避けられない。しかし、2019年7月のコミコン時点ではフェーズ4は映画『ブラック・ウィドウ』(当初2020年5月1日公開予定)から始まり、その後『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(当初2020年秋配信予定)、『エターナルズ』(当初2020年11月公開予定)、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年2月12日公開予定)、『ワンダヴィジョン』(当初2021年春配信予定)、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(当初2021年5月7日公開予定)、『ロキ』(当初2021年春配信予定)、『ホワット・イフ…?』(当初2021年夏配信予定)、『ホークアイ』(当初2021年秋配信予定)、『ソー:ラブ&サンダー』(当初2021年11月5日配信予定)の順番で発表されるはずだったのだ。

 この並び順を今見ると、その流れが非常に整っていることがわかる。フェーズ3の最終作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』には『エンドゲーム』のエピローグ的視点もあって、特にトニー・スタークを失った世界をピーター・パーカーの目線で捉えることができたため、『エンドゲーム』で迎えた熱をファンが保ち続けることに成功した。そして、フェーズ4も本来であれば『エンドゲーム』で我々が失った大切なキャラクター、ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)とキャプテン・アメリカを十分に振り返った上で、未来に目を向けさせてくれる作品が続いているのだ。この流れさえあれば、MCUファンは喪失感を乗り越えて、新しい風を受け入れる心の準備ができたに違いない。

エターナルズ
『エターナルズ』(c)Marvel Studios 2021. All Rights Reserved.

 さらに、新しいキャラクターやアイデア、世界観を再びフェーズ1のときのように土台作りとして展開していくフェーズ4は、本来の順番を見るとすごくバランスが取れていたように思う。ファンお気に入りのキャラクターについて描いた2作の次に、新しいキャラを紹介する『エターナルズ』と『シャン・チー』が2作続き、その後またワンダ(エリザベス・オルセン)とドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)というおなじみのキャラが登場するため、再びフェーズ3までのファンが安心して楽しめると同時に、既出のキャラクターの新たな一面と、このフェーズ4以降の重要な新テーマ「マルチバース」の紹介に繋がる。その「マルチバース」の概念は『ロキ』で深掘りされ、『ロキ』の最後に起きた出来事が実際どういうことなのかを理解するための『ホワット・イフ…?』があり、その後の2作もおなじみのキャラ、ホークアイ(ジェレミー・レナー)とソー(クリス・ヘムズワース)の新しい方向性を提示する物語が続いている。

 つまり、本来なら、これまでのMCUから新たなMCUへのグラデーションが滑らかになっているラインナップだったのだ。ただ、2019年の8月といえば、ソニーとディズニー/マーベル間でスパイダーマンの権利をめぐり、一悶着あったとき。当初の予定ではフェーズ4にスパイダーマンの作品が含まれる予定はなく、何ならMCUから離脱すると報道されたくらい。この時点では、過去2作の監督を務めたジョン・ワッツも第3作目に関する契約を結んでいなかったことを含め、『ノー・ウェイ・ホーム』はフェーズ4作品として事前に用意されていたわけではないことがわかる。その1カ月後の9月にソニーとの共同製作で映画を作ることになってからようやく動き出し、全米公開日が2021年7月16日予定と発表された。つまり、本来のスケジュールであれば『ホワット・イフ…?』の前後にくる予定だったことになる。この手前の8月23日にファイギはD23エキスポ2019にて、『ムーンナイト』と『ミズ・マーベル』、『シーハルク』の制作を発表するが、配信時期はこの時点では未発表だった。

『ブラック・ウィドウ』(c)Marvel Studios 2021. All Rights Reserved.

 しかし、これらすべてがコロナウイルスの感染拡大によって崩れてしまい、変更を余儀なくされてしまったことがフェーズ4にとっての不遇だろう。特に、一番の痛手は、『ブラック・ウィドウ』の劇場公開を1年2カ月も遅らせてしまったことではないだろうか。そのせいで本来なら『ドクター・ストレンジ』続編と連続して観られた『ワンダヴィジョン』が先頭にきてしまい、それが両作の脚本に変更をもたらした。しかも、先に述べた後出し発表のドラマ3作もこのフェーズ4に『ノー・ウェイ・ホーム』とともに合流したことで、このフェーズは過去最大の作品数を扱うものに。しかし、本来のように滑らかだった流れが崩れたせいで、一作ずつのつながりが希薄になり、バラバラのキャラクターたちが一体どこに向かうのかわからないまま、単発的な作品を学習モチベーションでとりあえず観なきゃいけない、そんな状況になってしまった。

 これまでのフェーズを振り返ると、フェーズ1も個々のキャラクターのストーリーがあったが、観客はすぐに『アベンジャーズ』というアッサンブル作品にたどり着けたし、その後またそれぞれの物語があっても、人数分終わればまた『アベンジャーズ』にたどり着けることがわかっていた。向かう先と、物語の積み上げ方が明確だったのだ。しかし、フェーズ4の場合は誰がチームアップするのか、誰がいわゆる“アベンジャーズ”として何に挑むのか、わからないままとにかく土台作りがなされていたことが、既存ファンの熱を少し冷ましてしまった要因になっているのではないだろうか。

『ワンダヴィジョン』(c)Marvel Studios 2021. All Rights Reserved.

 また、『ワンダヴィジョン』と『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のように、本来なら間髪入れずに観られた作品も、実際は数カ月も間が空いてしまった。ファンはディズニープラスに加入し、その間も他のドラマを観ておかなければいけなくなって、単純に一つの作品を観るハードルが高まってしまったことも、乖離を生んでいる要因に感じる。

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