『ムファサ』が『ソニック × シャドウ』に北米で逆転勝利 “大人向け映画”の注目作も続々

『ムファサ』が『ソニック3』に逆転勝利

 前週の予感が現実になった。北米の映画館業界は、ふたたび波乱含みとなったクリスマス商戦によって1年を締めくくっている。『スター・ウォーズ』やマーベル映画など、いわば“大本命不在”となった2024年のホリデーシーズンは、ハリウッドに起きている変化を十分に示唆するものだ。

 12月25日(水曜日)に始まったクリスマス商戦に勝利したのは、ともに公開2週目の『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』と『ライオン・キング:ムファサ』。注目は、12月27日~29日の週末3日間と、25日~29日までの5日間で、興行収入ランキングの第1位が入れ替わったことだ。

『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』©2024 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.

 『ソニック × シャドウ』は週末3日間で3800万ドルを記録し、「週末ランキング」としては2週連続でNo.1を獲得。しかし、クリスマス当日を含む5日間の成績は5980万ドルで、『ライオン・キング:ムファサ』の6,390万ドルに敗れている(同作は週末3日間で3710万ドルと僅差の第2位だった)。

 前週の衝撃は、『ライオン・キング:ムファサ』が『ソニック × シャドウ』に大差で敗れ、前作『ライオン・キング』(2019年)の初動成績にも遠く及ばなかったことだが、ディズニー×クリスマスの方程式は予想以上に強力だったと言うほかない。首位を譲った週末興収だけを見ても、『ソニック × シャドウ』は前週比マイナス36.8%だが、『ライオン・キング:ムファサ』は前週比プラス4.8%と興収増に転じている。クリスマスの後押しこそあれ、ハリウッドの大作映画で2週目に週末興収が伸びるケースは珍しい。

『ライオン・キング:ムファサ』©2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 『ライオン・キング:ムファサ』は海外市場で傑出した成績を示しており、北米興収1億1348万ドルに対し、海外興収は2億1450万ドル。全世界累計興収は3億2798万ドルと、製作費2億ドルの回収に向けて予想外のペースでばく進している。ディズニーにとっては『インサイド・ヘッド2』や『デッドプール&ウルヴァリン』、『モアナと伝説の海2』に続く好成績となりそうだ。

 ただし『ソニック × シャドウ』も引き続き好調で、北米興収は1億3755万ドルと、北米市場では『ライオン・キング:ムファサ』に差をつけている。海外市場では7400万ドルのオープニング興収を記録し、シリーズ最高記録となった。世界興収は2億1155万ドル。製作費は1億2200万ドルだから、大成功のシリーズ第3作であることは確かだろう。

 もうひとつの注目は、クリスマスというファミリー層が中心になる時期にもかかわらず、4本の大人向け映画がベスト10に初登場したことだ。いずれも大作と呼べるほどの高予算を投じていない、コロナ禍なら配信リリースもありえた規模の作品である。

NOSFERATU - Official Trailer

 第3位『Nosferatu(原題)』は、『ライトハウス』(2019年)のロバート・エガース監督がサイレント映画の名作『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年)をリメイクしたゴシック・ホラー。出演者にはビル・スカルスガルドやリリー=ローズ・デップ、ニコラス・ホルト、アーロン・テイラー=ジョンソン、ウィレム・デフォーら豪華キャストが揃った。

 クリスマスにR指定のホラー映画が成功するケースは一般的ではないが、本作は潜在的なホラー需要を満たし、週末3日間で2115万ドル、5日間で4030万ドルを記録。なんと、観客の約半数が「ホラー映画を観たくて」劇場に足を運んだというのだ。事前の予想を大幅に上回り、クリスマス公開のホラー映画としては『パラサイト』(1998年)を超えて史上最高のスタートとなった。

 本作はIMAX上映が実施されたこともあり、観客の40%が鑑賞の前日にチケットを購入。観客の男女比は男性54%・女性46%とほぼ半々で、18歳~34歳が約65%と、若年層の心をつかんだ。製作費は5000万ドルだから、この勢いを維持できればビジネス的な成功も確実だろう。

 Rotten Tomatoesでは批評家スコア86%・観客スコア75%、映画館の出口調査に基づくCinemaScoreでは「B-」評価と反応も上々。ホラー映画は賛否が分かれやすく、ロバート・エガース作品といえばなおさらだ。日本公開は未定、公開情報の到着が待たれる。

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

 第6位『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は、ティモシー・シャラメ主演&ジェームズ・マンゴールド監督によるボブ・ディランの伝記映画。週末3日間で1160万ドル、5日間で2317万ドルを記録し、サーチライト・ピクチャーズ作品としては『ノトーリアス・B.I.G.』(2009年)に次ぐオープニング成績となった(すなわち、ディズニーの買収後では最高の数字ということだ)。

 『Nosferatu』がホラー需要に応えた一方、本作が応えたのは、純粋な「大人向け映画」需要だった。観客の男女比は男性49%・女性51%と半々で、主たる年齢層は高め。鑑賞の動機は、全体の53%が「ボブ・ディラン映画だから」、36%が「ティモシー・シャラメ主演だから」、20%がエドワード・ノートンやエル・ファニング、モニカ・バルバロらを含む「出演者全体のため」と回答している。

 製作費は7000万ドルだからコスト回収への道のりは遠いが、本作はアカデミー賞の候補入りも大いに期待されており、現時点でどこまで数字が伸びるかを判断するのは難しい。Rotten Tomatoesでは批評家スコア76%に対し、観客スコアは96%。CinemaScoreでも「A」評価と観客の支持が高いため、口コミ効果で年明けの数字にも期待できそうだ。日本公開は2月28日。

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