『クレイヴン・ザ・ハンター』の意欲的な挑戦 『ヴェノム』シリーズと対照的な“映画らしさ”
『ヴェノム』3作、『モービウス』(2022年)、『マダム・ウェブ』(2024年)と、『スパイダーマン』のキャラクターたちをそれぞれ主人公にした実写映画……「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」と呼ばれてきた、このスピンオフ大作シリーズが、終了するという噂が、現在WEB記事を基に流れている。(※)
とはいえ、ソニー・ピクチャーズから正式な声明が出ているわけではない。「終了」という見方は、現時点ではメディアの推測に過ぎないのだ。ソニー側も今後、ヒットが見込める企画によってゴーサインを出すことはあり得るだろうし、わざわざ確定的なことを言って未来のヒットの可能性を自ら潰すような選択はしないのではないか。
実際、「マーベル・シネマティック・ユニバース」と合流する、2026年公開予定の『スパイダーマン4(仮題)』や、劇場版アニメシリーズの続編『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』、さらにはニコラス・ケイジ主演のドラマシリーズ『スパイダー・ノワール(原題)』などなど、『スパイダーマン』関連のさまざまな企画は、今後も続いていくことが決定している。そのなかでユニバースとのリンクやキャラクターの再登場、展開によってはその先の続編の製作も当然視野に入ってくるだろう。
しかし、この性急な報道の煽りを受けてしまったのが、新作『クレイヴン・ザ・ハンター』だ。同作はシリーズ終了の噂へのファンの落胆を受けたのか、「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」史上最低のオープニング成績にとどまることとなってしまった。スタッフ、キャストにしてみれば不運としか言いようがない。
だからといって、『クレイヴン・ザ・ハンター』が作品として見どころがないかというと、もちろんそんなことはない。むしろ、人気を集めた『ヴェノム』シリーズとは対照的に、「映画らしい」見応えを重視した仕上がりになっているとともに、意欲的な挑戦がさまざまに見られる内容となっていた。
アーロン・テイラー=ジョンソン演じる主人公は、スパイダーマンの代表的なヴィランの一人である「クレイヴン・ザ・ハンター」ことセルゲイ・クラヴィノフ。原作コミックでスパイダーマンを倒すほどの実力を発揮した、このキャラクターの誕生するエピソード「オリジン」が、本作で綴られていく。
興味深いのは、その物語の中核として設定されたのが、ラッセル・クロウ演じる父親ニコライの支配に反発する、主人公セルゲイの葛藤だということだ。セルゲイは少年時代、異母兄弟のディミトリ(フレッド・ヘッキンジャー)とともに、ニコライによってハンティングに同行させられる。本作ではセルゲイの父親はロシアンマフィアのボスであり、組織を継ぐことになる息子に野生で生き抜く力を与えようとしていたのだ。
その目論見は、意外なかたちで叶うこととなる。ディミトリをかばってライオンに襲われてしまい、自分の身体の中にライオンの血液が入ることで、セルゲイは“百獣の王”の力を持った存在「クレイヴン・ザ・ハンター」へと成長していくのである。