杉本穂高の「2024年 年間ベストアニメTOP10」 「原作を尊重する」とはどういうことか
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2024年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第10回の選者は、映画ライターの杉本穂高。(編集部)
1. 『ルックバック』
2. 『きみの色』
3. 『劇場版 モノノ怪 唐傘』
4. 『リンダはチキンがたべたい!』
5. 『化け猫あんずちゃん』
6. 『めくらやなぎと眠る女』
7. 『傷物語 -こよみヴァンプ-』
8. 『ロボット・ドリームズ』
9. 『ガールズバンドクライ』
10. 『響け!ユーフォニアム3』
先日、「アニメ産業レポート2024」が発表され、2023年の日本アニメの市場規模が前年比114%の3兆3,465億円に達したと発表された(※)。これは2023年の統計だが、個人的な体感では2024年も同程度の規模感となるのではないか。随分と大きくなったものだ。
市場を牽引するのは、国内外ともに人気マンガのIPものだ。2024年はとくに「原作とどう向き合うか」を考えさせられるケースが多かったように思う。アニメの話ではないが『セクシー田中さん』の件は、人気マンガのメディアミックスを基本とするアニメ業界に対しても、無関係ではないことだ。あのようなことが二度とあってはならない。この件は、表面的に原作を変えるか変えないかという、表層的な議論を超えて、より本質的に「原作を尊重する」とはどういうことか、映像業界全体でもっと考えないといけないことを突き付けたのではないかと思う。
同時にアニメ業界がオリジナル作品をどう作り、育てていくのかも引き続き課題であり続けている。というか、産業規模が大きくなるにつれ、オリジナル企画のリスクは上がってきているだろう。単純に製作費が上がれば上がるほど、未知数の企画に賭けづらくなる。ここでも海外マーケットが重要になるだろう。人気IPの広がり方とは異なるルート、例えば映画祭などから世界市場に出ていく道も大きくしていく必要があると思われる。
以下、選出の根拠など。
1位に選出した『ルックバック』は原作ものだが、漫画家が漫画家について描いた当事者性の高い原作を、「描く」という接点を持つアニメーター監督が、映像に当事者性を力強く込めたことで成功に導いたと思う。どうしてこの監督がこの原作マンガを映像化するのか、言葉ではなく絵で100%以上の説得力が表現されており、ただ物語を忠実に映像化したという表面的なことを超えて、原作の精神性が尊重されていた。
『響け!ユーフォニアム3』は、対極的なアプローチで原作に向き合った。この決断は非常に勇敢だったと思う。『化け猫あんずちゃん』は原作には存在しない少女を主人公に据える大胆な発想で、作家性も原作の魅力も両方押し出してきた。
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