『虎に翼』は主婦の描き方も秀逸だった 総集編で再確認したい花江×梅子×百合の生き様
2024年は『燕は戻ってこない』(NHK総合)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)、『3000万』(NHK総合)など、ドラマをフックに社会問題……特に女性と社会との関わりが語られる機会も多い1年だった。なかでもNHK連続テレビ小説『虎に翼』は主人公・寅子(伊藤沙莉)が法律家として社会進出を果たす過程で“確かに存在しているのにいないものとして扱われてきた人たち”にもフォーカスし、多大な反響を呼んだドラマだ。
ここでは総集編に向け、主人公の寅子とは異なる生き方を歩んだ3人の主婦、元主婦にスポットをあて、彼女たちの人生を振り返ってみたい。
もう1人の主人公・花江
脚本を手掛けた吉田恵里香自身が語っていたように『虎に翼』の“裏”主人公が猪爪(米谷)花江(森田望智)である。花江は寅子の女学校時代の同窓生で、卒業後すぐに寅子の兄・直道(上川周作)と結婚し、猪爪家で同居をはじめる。
この花江が『虎に翼』において“裏”主人公として最初の存在感を示したのが猪爪家での「毒饅頭殺人事件検証会」のときだ。明律大学女子法科に入学した寅子は女子部の同期たちを自宅に招き、法廷劇で扱った事件の再検証をしようと皆で饅頭を作るのだが、その席で専業主婦として家事を担っていた花江が「寅ちゃんたちみたいに優秀で強い人には私の辛さが、寂しさがわかりっこないのよ」と泣き出し、辛い過去を持つよね(土居志央梨)は「甘えるな、自分で選んだ道だろう」と花江を強く否定する。
このあと、寅子は苛立つよねに対し、弱者に寄り添うことを呼びかけ、他の同期たちもそれぞれ自分が抱える苦しみを打ち明けるのだが、ここで提示されたのは「『虎に翼』では心に苦しみを抱えた誰をも否定しない、置き去りにはしない」という作品の大きな芯だ。つまり、吉田はドラマの走り出しで寅子たち「戦う者」と花江ら「戦えない者」の両方を肯定し、両者を描くと宣言したのである。
『虎に翼』において「戦えない者」の代表でもある花江は、寅子が法律家としての道を邁進する中、専業主婦として猪爪家を支え続けた。彼女が家の中のことを切り盛りしたからこそ、戦後のもっとも厳しい状況の中、寅子は法律家としての地位を獲得することができたのだ。「戦い切り拓いた」寅子と「守り支え続けた」花江。確かに『虎に翼』のもうひとりの主人公は専業主婦の花江であった。
家制度からの脱却・梅子
寅子の明律大学女子法科同期生のひとり・大庭(のちに竹原)梅子(平岩紙)。最後まで残った女子メンバーの中ではもっとも年長で夫は弁護士、3人の子の母親でもある。
外に愛人を囲い、自らを家政婦として扱うような夫と離婚し、三男の親権を取るために弁護士への道を志した梅子であったが、高等試験は受けられず、病に冒された夫の看病を約10年続けた。夫の死後、遺産相続の場で夫の愛人と心のよりどころであった三男の交際を知った彼女はすべての相続を放棄し、「ごきげんよう!」との高らかな宣言を残して大庭の家を出る。
学生時代、何かとアツくなりがちな寅子やよねといった年下の同期生たちの中でどこかおっとりした風情を構え、よく手作りのおにぎりを振舞う梅子だったが、優しいだけでなく、同時に芯の強さも宿していた。
ケア要員としてでしか自らの存在が認められないと心の底から自覚した瞬間、魂の自由を得るため梅子は呪いの家から脱出した。最終的には和菓子の修行を経て同期生たちのたまり場・甘味処の竹もとを継ぎ、店をリスタートまでさせる。
若いメンバーの中に年上の主婦が入ると、ストーリーの進行上、お母さん・お姉さん的役割のみを背負わされたり、都合の良いフォロー(おばさん)要員として描かれることも多いが、『虎に翼』の梅子は自立に向かい諦めずに歩み続ける人であった。また「妻は家に従い耐えて当然」との当時の価値観を、華麗にうっちゃってくれた存在でもある。