『ソー:ラブ&サンダー』北米No.1発進 マーベルは“フェーズ4”への批判を払拭できるか
やはりマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)強し。7月8日~10日の北米週末興行ランキングは、『マイティ・ソー』シリーズの第4作『ソー:ラブ&サンダー』がNo.1を獲得した。北米では3日間で1億4300万ドルを稼ぎ出し、シリーズの最高記録を更新。海外興収は1億5900万ドルで、すでに全世界興行収入は3億ドルを超えている。
『ソー:ラブ&サンダー』は、『アイアンマン』、『キャプテン・アメリカ』シリーズでさえなしえなかった、MCU史上初となるヒーロー単独映画の第4作。主演のクリス・ヘムズワースのほか、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2014年)以来の登板となったジェーン・フォスター役のナタリー・ポートマン、悪役でMCU初登場のクリスチャン・ベールら豪華キャストを束ねたのは、前作『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)を手がけたタイカ・ワイティティ。監督・脚本のほか、再びコーグ役を自ら演じている。
1億4300万ドルという北米初動成績は、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の1億8742万ドル、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の1億4507万ドルに続き、2022年公開作品の第3位。本作には製作費2億5000万ドル、宣伝費1億ドルが投じられている。
海外市場に視線を転じれば、47市場で1億5900万ドルという初動成績は事前の予想を上回るもの。マーベル人気がとりわけ高い韓国で1530万ドル、イギリスで1480万ドル、そしてクリス・ヘムズワースの故郷であり本作の撮影地となったオーストラリアで1380万ドルという優れた初動を記録し、メキシコ(1180万ドル)、インド(1030万ドル)、ブラジル(800万ドル)が続いた。
もっとも指摘しておくべきは、MCU作品の興行面よりも、むしろ『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)以降のクオリティ・コントロールの問題だろう。『ソー:ラブ&サンダー』はRotten Tomatoesで批評家スコア68%、観客の出口調査に基づくCinemaScoreで「B+」評価を記録。前作『マイティ・ソー バトルロイヤル』の93%と「A-」評価と比較すると、初動興収こそ上がれども評価は大きく下がったことになる。もともとスーパーヒーロー映画は公開直後に観客が集まりやすく、2週目以降は下落率が大きくなる傾向が顕著だ。口コミ効果を考えれば、今後の数字の推移に影響が出ることは避けられない。
映画とドラマシリーズを同時展開するMCUにおいて、マーベル・スタジオがクオリティ・コントロールに苦戦していることは近作の評価を見ても明らかだ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降の“フェーズ4”作品では、『ブラック・ウィドウ』(2021年)と『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年)、ソニー・ピクチャーズ製作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)は批評家・観客の大きな支持を得たが、『エターナルズ』(2021年)や『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』、そして本作への評価はそれらに及ばず、CinemaScoreでは3作揃って「B」クラスの評価となっている。
『ソー:ラブ&サンダー』の公開後、米TIME誌は「もはやマーベル・シネマティック・ユニバースは機能していない」という論考を掲載。現在のMCUは「キャラクターとストーリーラインの数が増えすぎたうえ、それぞれがバラバラの方向性に進んでいる」ために方向性がまるでわからないと批判した。またコロナ禍で公開順が変更された影響もあり、全体の物語が一貫性を欠いているうえ、マルチバースのコンセプトもきちんと定まっておらず、各作品を繋げたいのかそうでないのかも不明瞭だと指摘。独自路線を採った『ムーンナイト』(2022年)にさえ、「独立させるにふさわしい水準の脚本でなく、他の作品にも繋がらないのなら、本作に費やした6時間でもっと優れた作品を観ることができた」と辛辣だ。