『カムカム』と『おかえりモネ』は正反対の作品? “視聴者と物語”に発明的な仕掛け

『おかえりモネ』『カムカム』は正反対の作品

 『カムカムエヴリバディ』(以下『カムカム』、NHK総合)は時間の見せ方が上手いドラマだ。

 藤本有紀が脚本を手掛ける『カムカム』は、「NHKのラジオ英語講座」を聴いてきた祖母、母、娘の親子三世代「100年の物語」を描く。

 物語は日本でラジオ放送がはじまった1925年(大正14年)に安子(上白石萌音)が生まれる場面から始まり、1944年(昭和19年)に生まれた安子の娘・るい(深津絵里)、1965年(昭和40年)に生まれたるいの娘・ひなた(川栄李奈)へと引き継がれていく。

 『カムカム』は、ヒロインが変わるごとに物語の印象が大きく変わっていく。安子編では戦争によって翻弄された女性の悲劇が描かれた。劇中では1925年~1951年という26年間の月日が流れる波瀾万丈の物語となっていた。

 対してるい編の中心となるのは、1962年の大阪。描かれるのは、るいとジャズミュージシャンの大月錠一郎(オダギリジョー)のラブストーリーだ。最終的に京都に引っ越し、回転焼き屋をはじめた二人に娘のひなたが生まれたところで、るい編は一区切りとなるのだが、描かれるのは、豊かになっていく日本で青春を謳歌する若者たちの姿で、安子が生きた激動の時代と対になっている。

 一方、ひなた編は、安子やるいの時代と比べると何倍も自由で平和だが、将来進むべき道を自分で見つけなければいけないという、豊かな時代ならではの困難がコミカルなタッチで描かれている。

 安子編、るい編、ひなた編は、これまで朝ドラが描いてきた時代(戦時下、高度経済成長期、80年代以降)と、三世代のヒロインを、3つに分けて描いている。

 女性の物語を紡ぎ続けてきた多くの朝ドラにおいて、祖母・母・娘の物語を描くことは定番化している。橋田壽賀子脚本の『おしん』や渡辺あや脚本の『カーネーション』のように、ヒロインの年齢の変化によって見せてきた作品もあれば、宮藤官九郎脚本の『あまちゃん』や前クールに放送された安達奈緒子脚本の『おかえりモネ』のように、ヒロインの物語の途中で両親の過去を描く作品もある。

 これまでの朝ドラの手法で描くのであれば『カムカム』は、『おかえりモネ』のように、ひなた一人を主人公にして、るいや安子の過去の話を途中で展開していたのかもしれない。
しかし、藤本有紀は、3人の女性を主人公にするリレー形式で物語を進めた。その結果、3本の違うテイストの朝ドラが一つに融合した「朝ドラの集大成」のようにみえることが『カムカム』の独自性である。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる