『カムカムエヴリバディ』川栄李奈×本郷奏多が愛おしい理由 平成の恋人たちの幸せを願って
朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第68話にこんな場面があった。
るい(深津絵里)が、幼いひなた(新津ちせ)のために、本屋で英語講座のテキストを手に取っている。そのままカメラは流れるように、まるで本屋の外の風景を映すかのように次の場面に移り、そこでは桃山剣之介(尾上菊之助)演じる棗黍之丞がお茶を飲んでいて、美咲すみれ(安達祐実)演じるおゆみが微笑んで彼を見つめている。次第にその光景は、大月家のテレビ画面の中に納まり、それを父・錠一郎(オダギリジョー)と見ているひなたが「はあ、かっこよかったわぁ」と喜んでいる。その流れはひと繋がりで、まるで、るいのいる“日常”と、テレビの向こうの時代劇『棗黍之丞シリーズ』という“非日常”が、曖昧に溶け合っているかのような、奇妙な感覚を覚えた。
そして、それを見ているひなたたちは、まるで私たち視聴者そのものだ。川栄李奈演じるひなたが登場した第71話は、朝ドラ『おしん』の初回放送を、食卓を囲んで見ている大月家の朝食の風景から始まる。朝ドラを見ている彼らを見ている私たちもまた、テレビの向こうの物語と、こちら側の物語が時に融合し、絡み合うドラマ構造それ自体の中に取り込まれているような、そんな気がするのである。
『カムカムエヴリバディ』ひなた編は、3つの意味で、これまでの複数の要素が合わさり、渾然一体となった章だ。1つは、安子(上白石萌音)にもるいにも似ている、かといって「ちょっとはみ出している」のが魅力の3代目ヒロイン・ひなたのキャラクターである。言動が、戦争により無邪気でいられなくなるより前の安子と時折重なること。一方、客を前にした時の独白癖や、悩み事がある時に、テレビ番組の中につかの間身を置く空想をする癖があることは、若き日のるい譲りだ。
2つ目は、算太/サンタ黒須(濱田岳)、赤螺吉右衛門(堀部圭亮)と母・清子(松原智恵子)といった、安子編である岡山時代からそうとは知らずに繋がっている人々。親子3代の物語を見守ってきた視聴者は、すれ違い続ける彼らの、本当の意味での「再会」の日をヤキモキしながら待ち続けている。
もう1つは、前述した、ひなたの日常と、これまでテレビ・スクリーンの向こうの世界として描かれてきた「時代劇」の世界との融合。ひなた自身が、「条映太秦映画村」という、観光施設である映画村と、撮影所を兼ねる場所で働いているということだけでなく、2つの世界は見えないところで時折関わり合いながら、並走を続けてきたことがわかってきた。「サンタ黒須」こと算太が、自身の父・金太(甲本雅裕)との関係性をモモケン親子に重ねたのだろうアドバイスを、当時桃山団五郎だった二代目にしたこと。さらには「大月」の回転焼きが、彼に、かつて算太が語った「あんこのおまじない」を思い出させたこと。立ち寄った店先の『妖怪七変化!隠れ里の決闘』のポスターが、彼に同作品の再映画化を決意させるきっかけになったこと。
まるでスターという太陽を輝かせる月のように、もしくは、スターの魅力を最大限に引き出す「一流の斬られ役」である、伴虚無蔵(松重豊)のように、時代劇のスター「桃山剣之介」親子の物語の裏には、御菓子司「たちばな」からはじまる、安子・るい・ひなたと、彼女たちが愛する家族の物語があった。