『カムカム』と『おかえりモネ』は正反対の作品? “視聴者と物語”に発明的な仕掛け

『おかえりモネ』『カムカム』は正反対の作品

 今、考えると『おかえりモネ』は『カムカム』とは正反対の作品だった。

 『おかえりモネ』は、2010年代という時代設定や気候変動といったテーマこそ最新のものだったが、物語構造自体は朝ドラの王道で、ヒロインが成長していく姿や人間関係の出来上がっていく様子をゆっくり丁寧に描いていた。

 対して『カムカム』は時代背景や設定こそ朝ドラの王道だが、物語の見せ方が大きく違う。100年の歴史を描いているため『カムカム』は、物語のスピードが早いように見える。しかし、1話1話は良質の短編のようで、観ている時は15分が1時間に感じる濃厚さとなっている。近年の朝ドラが1週間単位で話の流れを作っていたのに対し、『カムカム』は時間の流れが変幻自在だ。1話の中で時間が1年過ぎる回もあれば、るい編のように1962年の出来事を延々と描くこともある。緩急が絶妙で、時間の流れがデザインされているからこそ、観ていて飽きないのだろう。

 また、安子編、るい編、ひなた編はそれぞれ呼応しており、安子編に登場した音楽や小道具が、るい編、ひなた編で再登場する。一方で、親子関係の描かれ方は大きく変化しており、それは役者の見せ方に強く現れている。

 たとえば、安子編が終わると安子を演じた上白石萌音は退場し、るい編で入れ替わる形で深津絵里が登場した。対してひなた編では、ひなたを演じる川栄李奈が登場しても、るいを演じる深津絵里は退場しない。幼少期に母と別れたるいが、母としてひなたの側にいることの意味はとても大きい。だが、本作はその意味を強調しない。

 状況説明はニュース番組に任せ、心情を流行歌に託して描く『カムカム』は台詞で説明しない場面が多い。その多くは、るいの過去に関係する出来事だが、ここまで『カムカム』を観てきた視聴者は、彼女に何があったのかを知っている。この“視聴者だけが事情を全て知っている”という状況を生み出したことこそが朝ドラとしての『カムカム』の最大の発明ではないかと思う。

 ひなた編の面白さは、ひなたの背後に、安子とるいの物語が透けてみえることだが、自分の両親や祖父母にも、安子やるいが経験したような物語が存在するのではないかと想像してしまう。大なり小なり、人は秘密の過去を抱えている。たとえ肉親であっても、そのことは口にしないで、墓場まで持っていく人の方が多い。

 語られずに埋もれていった物語が、人の数だけあるのだと『カムカム』は教えてくれる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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