スピルバーグの映画的な運動への執着が生々しく刻まれた『ウエスト・サイド・ストーリー』

スピルバーグの映画的な運動への執着

 往年のミュージカル映画では、ミュージカルシーンに突入した途端に物語の進行が止まることも多々あるのだが、スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』は、常に画面全体を動かし続けることで時間が止まっている感覚を観客に与えない。舞う煙や埃、飛び散る水、照明が、重力も時間も存在するという実感を画面に与え、被写体であるダンサーは踊り、そこへさらにカメラの移動も加わって、前景から背景まで一貫してシャープな画面が、完璧な構図で動き続ける。この数式のように美しい画面が、すべて偶然のようにも見えるのだから不思議で仕方がない。何がアクションで、何がリアクションなのか、その境界さえもわからない。光の彫刻としての映画が、絶え間ない運動の中で、ダンスをしている感覚そのものになる。「古典」に物語を託し、ミュージカルという形式がもつ特異なナラティブを導入した結果、『ウエスト・サイド・ストーリー』は、スピルバーグの映画的な運動への執着が生々しく刻まれている作品となった。

ウエスト・サイド・ストーリー

 映画を巡る様々な状況が変化している中、1961年の『ウエスト・サイド物語』や、1962年の『アラビアのロレンス』といった「スーパー・パナビジョン70」で撮影されたワイドスクリーン時代の大作映画に回帰する動きとして、2021年に『ウエスト・サイド・ストーリー』と『DUNE/デューン 砂の惑星』は公開された。しかし、年間の興行収入で圧勝したのは『ウエスト・サイド・ストーリー』とほぼ同時期に公開された『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だった(参考:【ネタバレあり】“グループセラピー”と“ニューヨーク”から紐解く『スパイダーマンNWH』)。ニューヨークを舞台にしたティーンエイジャーの物語として共通点のある2作品ではあるが、どんどん映画ではない何かに変貌を遂げつつあるフェーズ4以降のマーベル・シネマティック・ユニバース作品と、映画的運動を追及している作品では、あまりに違いが大きく、おそらく観客の層も分断していると思われる。願わくば、違うカラーをもった「ジェッツ」と「シャークス」が争いながらも、同じ空間で踊ることで、体育館を虹色にしてしまったような、そんなポップカルチャーの世界で、まだ見ぬ誰かと出会いたいと思う。「第三次世界大戦でも始めるつもり?」と冗談を言われながら。

■公開情報
『ウエスト・サイド・ストーリー』
全国公開中
製作:監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
作曲:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
振付:ジャスティン・ペック
指揮:グスターボ・ドゥダメル
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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