『ウエスト・サイド・ストーリー』で更新される時代観 映画×ミュージカルの相互作用
スティーヴン・スピルバーグにとってキャリア初のミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』が2月11日から日本で公開された。
ミュージカル映画といえば『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』などの世界的ヒットが記憶に新しいが、特にここ数年はこれまでになく多くの作品が作られファンを喜ばせている。
『キャッツ』、『ディア・エヴァン・ハンセン』、『イン・ザ・ハイツ』、そして『ウエスト・サイド・ストーリー』といった劇場公開作の他に、『ザ・プロム』『tick, tick... BOOM!:チック、チック…ブーン!』など配信で公開されたものもある。以上に挙げたタイトルは2019年~2021年に製作されたミュージカル映画の一部にすぎないが、これらはいずれも(オフ)ブロードウェイで上演された作品の映画化という共通点がある。
ハリウッドとブロードウェイの間には、これまでにも強い結び付きがあったことは言うまでもないだろう。遡れば、1957年に初演された同名ブロードウェイ・ミュージカルの映画化『ウエスト・サイド物語』(1961年)、1959年初演作を基とする『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)などよく知られた名作映画から、今日まで枚挙にいとまがない。
また映画が舞台劇化されるパターンも多い。ビリー・ワイルダー作品『アパートの鍵貸します』(1960年)は1968年に『プロミセス・プロミセス』として上演され、トニー賞を獲得。また『スクール・オブ・ロック』(2003年)のブロードウェイミュージカルは2015年の初演から大きな人気を博すヒット作となった。アメリカのショービジネスにおいて映画とミュージカルは、互いが互いの創作源となりながら影響を与え合い続けている。
こうした現象について研究する演劇学者のロナルド・ザンク教授は、ブロードウェイミュージカルの新作のうち映画作品を基とするものの比率が、1960年には5%だったに対して、2010年には41%と大幅に増えていることを指摘。「馴染みのブランドによって観客を安心させる意図から、(リメイクは)経済的な安全策となっている」と分析している。(※1)
しかしここ数年にみられるミュージカル映画の“豊作”ぶりは経済的なリスクヘッジのほか、クリエイティブな視点からも要因が導き出せるように思う。その一つは、大衆によく知られた演目をオリジナルのアプローチで再構築することにより、新たな価値観を提示できることだ。
その例として挙げられるのは、映画版『アニー』(2014年)。基となる同名ブロードウェイミュージカルは「トゥモロー」をはじめその楽曲が広く歌い継がれているが、HIP HOPシーンのヒットメイカー、ジェイ・Zがプロデューサーを務め、アフリカン・アメリカンのアニーが主人公となる同作では、これらの名曲がブロードウェイ版とは異なる音楽的要素で構成されていたことが印象を残した。
こうしたところは配信作品を年々増やし続けているストリーミングサービスにとっても、独創的なオリジナルコンテンツを提供する上で重要なポイントとなっている。Netflixオリジナル映画部門の担当者は「ミュージカルの映画化はオリジナリティを感じさせるものであり、Netflixも投資を続けていくだろう」と語っている。(※2)