社会の動きに重なる、3人のスパイダーマンの変遷 MCU版は“失っていく物語”に

3人のスパイダーマンと社会の変遷

より個の時代に向かう象徴となったMCU版『スパイダーマン』がたどり着いたラスト

 そして迎えたMCU版スパイダーマンでは、最初から最後までピーターの周辺環境で困窮しているような印象はあまり感じられなかった。そして『アメスパ』の頃からも急速に発達したテクノロジー技術が、ピーターの趣味やスーツの仕様に反映されている。言ってしまえば、トムホ版ピーターはかつての先輩ピーターたちが経験した苦労もなく、イージーゴーイングな感じでスタートしているのだ。何より、これまで孤独な存在として描かれてきたスパイダーマンが、MCU版ではすでにアベンジャーズという存在がいたため“チームの一員”であり、決して孤独ではない。そして、もっとも興味深いのはこれまでの『スパイダーマン』が「失ってから得てきた物語」だったのに対して、MCU版がそういった“得ていたもの”を「失っていく物語」になっていることである。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

 例えば『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でのミステリオ(ジェイク・ギレンホール)というヴィラン。彼がラストにばら撒いたフェイクニュースは、ドローンを含めたテクノロジーの進歩が招いた悲劇だ。現実でもまた、技術が発展したがゆえに生まれた社会問題に悩まされているとき。復興が進み、進化した先には“得たからこそ”得たものを失うというプロセスが存在する。それを『ファー・フロム・ホーム』そして『ノー・ウェイ・ホーム』にかけて描いたのは印象的だった。さらに『ノー・ウェイ・ホーム』ではSNSの普及によってより孤独になっていく若者の姿も垣間見える。かつて『アメイジング・スパイダーマン』で市民が手を取り合って“人助け”をしていたのに、今は他者への関心が希薄になったどころか知りもしない相手をネットで攻撃することに抵抗もなくなってきた。“集団”から“個”の時代に向かう今を、ピーターが孤立になっていく様子から感じて仕方ない。もう、『アメイジング・スパイダーマン2』のラストでライノの前に立ちはだかったような少年が、今の時代のスパイダーマンを助けることはない。だから、過去のスパイダーマンたちが彼を救わなければいけないという流れに、胸に熱いものが込み上げてくる。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(c)2021 CTMG. (c)& TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

 それでもやはり、最後はトムホ版スパイダーマンが孤独になる。ピーター・パーカーという存在は、彼の愛する者の記憶から消されてしまった。しかし、“スパイダーマン”は人々の記憶に残り、今日もニューヨークの街を駆け巡っている。市民がこれからの未来を託す、希望の象徴として。だから、決して“私たちは”忘れてはいけない。そのさきで、いつか我々が、“その象徴”を救うために他者と再び手を取り合う時が訪れることを信じて。

■公開情報
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
全国公開中
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ファヴロー、ジェイコブ・バタロン、マリサ・トメイ、アルフレッド・モリーナ、ウィレム・デフォー、ジェイミー・フォックス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題:Spider-Man: No Way Home
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