杉本穂高の「2021年 年間ベストアニメTOP10」 アニメ作品に反映された“変化”の兆し

杉本穂高の「2021年アニメTOP10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2021年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第1回の選者は、神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人で、現映画ライターの杉本穂高。(編集部)

1. 『平家物語』
2. 『アーケイン』
3. 『漁港の肉子ちゃん』
4. 『CALAMITY カラミティ』
5. 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
6. 『王様ランキング』
7. 『オッドタクシー』
8. 『竜とそばかすの姫』
9. 『PUI PUI モルカー』
10. 『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』

 2020年から続くコロナパンデミックに、引き続き振り回された1年だった。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の度重なる公開延期は象徴的だった。昨年6月公開予定が今年の1月に延期され、緊急事態宣言が再び発出されると再延期となり、宣言明けの翌日3月8日の月曜日から公開が始まる異例の対応が行われた。しかし、そういう作品が年間興行収入トップを獲得したのは、ややナイーブな言い方になるが、コロナに負けないという強い意思を感じさせて頼もしかった。

 しかし、今年の興行状況は依然苦しい。昨年と比べれば上向いたが、2019年対比では50~60%程度にとどまっており、映画館に観客が戻ってきたとは言い難い状況にある。そんな中、今年の興行収入を牽引したのはアニメ作品だった。アニメは映画館を救っていないと発言した映画プロデューサーもいたが、興行の現実を見つめるべきだ。もちろん、アニメだけで映画館を支えているわけではないが、重要な柱であることは間違いない。

 オミクロン株の流行次第でハリウッドの話題作が再び公開延期になることも考えられる。新海誠の新作をはじめ、2022年も引き続き、アニメは映画館の重要なコンテンツとなるだろう。

 アニメ産業も劇的な変化の時期を迎えている。アニメ産業レポート2021によると、2020年に海外市場での売上が国内市場を遂に抜いた。配信がテレビを超える影響力を発揮しつつある。労働問題も紛糾している。

 国内市場は、人口減少と急激な経済悪化で成長が見込めない。これから日本アニメは、本格的にグローバル市場で戦う必要がある。グローバル市場の特徴は一言では言い表せないが、とにかく変化が速いということは言える。その変化の速度についていくことができるかどうかが問われる。

 ただ、変われば何でもいいというものでもない。自分たちのストロングポイントを見失わずに変わっていけるかが重要だ。

 今年のベスト10は、そんな変化の兆しが反映されていると思う。1位の『平家物語』と2位の『アーケイン』がそれを物語っている気がする。

 以下、各作品の選考理由を簡単に記していく。

10位:『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』

 今年は個人的に「映像と音のアトラクション性」に注目した年だったのだが、ナラティブな説得力とは異なる領域に大きな魅力がある本作は、それを象徴する作品だった。物語の構造分析よりも映像と音の体感が与えるものについてより深く考えるために個人的に重要な作品だった。

9位:『PUI PUI モルカー』

 日本はアニメ大国とよく言われるが、正確にはセルルックのアニメ大国であり、それ以外のアニメーション手法は周辺的な存在だった。だが、『モルカー』は一気にストップモーションの魅力を広く認知させた。これをきっかけにセルルックアニメだけでなく、様々な手法のアニメーションが拡がれば、日本のアニメ産業は大きく変化するかもしれない。今年は本作の他に『JUNK HEAD』という長編ストップモーション・アニメーション作品も話題となった。この2作は、日本における商業アニメーションの可能性を拡げてくれた。

8位:『竜とそばかすの姫』

『竜とそばかすの姫』(c)2021 スタジオ地図

 細田守監督の久々のネットを舞台にした作品だったが、12年前の『サマーウォーズ』とはネット世界の様子は様変わりした。「U」の世界は余白がない。コンテンツもユーザーも多すぎて、すでにすみずみまで開発しつくされ、現実以上の息苦しさのある世界へと変化したネットの今が刻まれていた。

7位:『オッドタクシー』

 見事なプロット構成で最後まで飽きさせない完成度の高い物語だった。脚本の此元和津也氏は、アニメ脚本を手掛けるのは初めてだったが、だからこそ、唸らせる新鮮なセリフ回しが満載だった。日本の声優は芝居が上手いので、会話劇はむしろアリだ。此元氏はこれからもアニメの脚本で活躍してほしい。久しぶりのスター脚本家の誕生だ。

6位:『王様ランキング』

『王様ランキング』(c)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会

 主人公のボッジは非力で剣を持ち上げられない。持ち上げることができない悲しみや悔しさを作画で伝える必要がある。本作は、「物を持つ」というシンプルな芝居をすごく丁寧に描いていて、一つの一つの芝居から感情が溢れている。動きのための動きじゃない、感情を表現するための動きが細やかに的確に描かれていて素晴らしい。今年一番、テレビアニメで純粋に芝居で感動させられた作品。

5位:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

 庵野監督が、これまでに挑んできた映像表現の哲学が詰まっていた。『エヴァンゲリオン』というコンテンツの終わりであるだけでなく、アニメと実写、両方を手掛けてきた庵野監督の映像に対する一つの答えを見たような気がしている。同時に、庵野監督がアニメ作品を手掛けるのはこれが最後なのかもしれないという予感がよぎった。やはり、庵野監督の感性の故郷は、実写とアニメの中間領域である「特撮」にあるのだと、本作を観てはっきりと感じた。

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