山田尚子監督が描いた“女性の物語” 『平家物語』から紐解く日本アニメの潮流

『平家物語』から紐解く日本アニメの潮流

 映画ライターの杉本穂高と批評家・跡見学園女子大学文学部准教授の渡邉大輔が話題のアニメ作品を解説しながら、現在のアニメシーンを掘り下げていく企画「シーンの今がわかる!アニメ定点観測」。

 第3回は、山田尚子監督作『平家物語』をピックアップ。山田監督が新たに取り入れた作画要素から見える日本アニメの流れや、“女性の物語”としての側面における本作の魅力などについて語ってもらった。(編集部)

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『平家物語』からみえる山田尚子らしさと新たな版画的要素とは?
『平家物語』山田尚子監督が描いた“女性の物語”とは

山田尚子らしい実写感と新たな版画的要素

杉本穂高(以下、杉本):『平家物語』を山田尚子監督が作ると初めて聞いたとき、どう思いましたか?

渡邉大輔(以下、渡邉):非常にミニマムな身の回りの日常を扱う作品で注目されてきた京都アニメーション出身の山田監督が、『平家物語』という日本を代表する貴族と武士の物語をどう作り出すのか興味深く感じました。あと、センシティブな話になりますが、『平家物語』は大きな災いの話でもあるので、京アニ事件とどうしても結びついてしまうというか。そういう中でどんな作品が作られるのか非常に気になったというのが僕の第一印象でしたね。

杉本:僕がニュースを最初に聞いたときは驚きが先行しました。まず山田監督が京アニ以外で作品を作ることはあまり想像していなかったです。以前『リズと青い鳥』で山田監督に取材をさせていただいた際に、京アニスタッフに対する信頼感をすごく感じたんですよ。だから今回湯浅(政明)さんで有名なサイエンスSARUと組んで作るということで、どんな作品になるのか最初あまり想像がつきませんでした。第1話を観ての率直な感想として、非常に山田監督らしい作品になっていると感じましたね。絵コンテ、演出を山田監督が務めていて、背景やキャラクターデザインは京アニ時代から大きくスタイルが変化しているのに対し、カメラの使い方は京アニ時代から一貫していると思いました。渡邉さんはいかがですか?

渡邉:山田監督は『映画 聲の形』で結絃ちゃんが一眼レフカメラ持っていて覗くみたいなところにダイレクトに表れているような、“撮っているという意識”が非常に強い方で、今回もそれは感じました。特に第1話の冒頭シーンは、割といつもの山田監督っぽい実写感というか。具体的には必ず花や草などの植物が手前にあって、奥に人物を配置するというカメラの目線。あと、古代の平安の世界を切り取るということで、ローアングルという点ですよね。これまでの山田監督のセンスが活かされています。一方で、平面的なキャラクターの描き方とか横の構図も多いですし、そういう意味では今までの山田作品にはないような要素も入っていて面白くブレンドされていると思います。

映画『聲の形』 ロングPV

杉本:具体的なカットごとで話すと、第1話の1番最初のカットが蝶々で、もろ山田監督だなと思いましたよね。物語に入った中でもびわとお父さんの最初のカットでは、足だけにピントが当たるように被写体深度を狭めている。あの狭さも山田監督がよくやる手法です。今回作品を観ていて面白いなと思ったのが、カメラのオートフォーカス機能っぽい挙動をするカットがいくつかあるところです。例えば、びわのお父さんが持っている杖を落としてしまうカットで、杖が地面に落ちてぶつかる瞬間にカメラのフォーカスがぶれる場面がある。映画における“カメラが何を大事にしているか”はいろいろな議論がありますが、「観客の視点になること」が1つにあります。本作はまさに「平安時代の話をオートフォーカスのカメラを通じて観ているのは誰なんだ」ということを強く意識させる絵作りがなされていると思いますね。

渡邉:僕はあえて情報を入れずに観て、どうしても制作元がサイエンスSARUなので、湯浅さんを多少意識しているのかなという感じはありました。最近の長編アニメーション映画を観ていると、フェーズが変わってきたことを感じますよね。

杉本:背景に版画っぽさがありますが、最近日本のアニメ界で流行りだしているのかなという印象があります。イシグロキョウヘイ監督の『サイダーのように言葉が湧き上がる』や、テレビアニメ『MARS RED』は、それぞれ監督や美術スタッフの方々が川瀬巴水を意識していると話しています。版画とは少し異なりますが、テレビアニメの『Sonny Boy』は手描きの背景にこだわって描いています。疑似実写というのは1つの流れとしてあったわけですけど、そうじゃない流れを模索し始めていて、それを山田尚子という人がやり始めたということは象徴的な気がします。

映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』予告映像

渡邉:僕はそのようなことを全く知らずに観ていましたが、『平家物語』の背景は完璧に川瀬巴水だと思いました。あと、音楽で言うと牛尾憲輔さんの音楽がとにかく“今”っていう感じじゃないですか。時代劇のような意識は全然していなくて完全に『聲の形』とか『リズと青い鳥』の延長で作っていて、それが本当に平安時代が舞台になっているという。すごい不思議な世界観というか空気になっていますよね。

TVアニメ「平家物語」PV 2022年1月よりフジテレビ「+Ultra」ほかにて放送開始&9月15日(水)24時よりFODにて先行独占配信。

杉本:時代を特定させない雰囲気がありますよね。それで言うと、主人公のびわが歳を取らないどうも特権的な存在っぽいですよね。多分時を超越した存在として描かれそうな雰囲気があります。

渡邉:『平家物語』って原作の古川日出男さんの小説の特徴にもありますが、語りのダイナミズムや登場人物が、うごめいている歴史の大きさを描くわけです。しかし今回のアニメではオリジナルキャラクターの女の子・びわが傍観者となり、作中で彼女が観ている未来が描かれちゃっているわけですよ。だからそういう意味では『平家物語』や古川文学が描いているような滔々とした大きな流れというよりも、時が停滞してしまった標本箱を観ているような感じです。だからその辺がいわゆる『平家物語』のイメージっぽくない『平家物語』の描き方になっていて、それがびわという特権的なオリジナルキャラクターが担保しているという感じがします。

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