『ラストナイト・イン・ソーホー』エドガー・ライト監督が語る、60年代映画と#MeToo
エドガー・ライト監督初の本格的なホラー映画『ラストナイト・イン・ソーホー』は、『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ベイビー・ドライバー』など、これまで彼が手がけてきた作品から大きな変化が感じられる野心作だ。『ジョジョ・ラビット』『オールド』のトーマシン・マッケンジーと、『スプリット』『クイーンズ・ギャンビット』(Netflix)のアニャ・テイラー=ジョイをメインキャストに迎え、ファッションデザイナーを夢見てロンドンにやってきたエロイーズと、彼女が夢の中で出会う、60年代のソーホーで歌手を夢見るサンディの“夢”と“恐怖”が描かれる。
今回リアルサウンド映画部では、監督を務めたエドガー・ライトにリモートインタビュー。ホラーに挑戦しようとした背景や、共同で脚本を手がけたクリスティ・ウィルソン=ケアンズとの出会い、#MeToo時代にも通じる現代的なテーマについて話を聞いた。
「僕にとってこの映画はものすごくパーソナルなもの」
ーー『ラストナイト・イン・ソーホー』はあなたにとって初の本格的なホラー映画になります。ホラー映画を撮ろうというアイデアはもともと監督の中にあったんですか?
エドガー・ライト(以下、ライト):そうだったと言えると思います。シリアスなホラー映画を作りたいと長年考えていました。そのためにはまず、自分自身が怖いと思えるような題材を見つけなければいけませんでした。それはものすごく大事なことなので、その題材を決めるのに時間がかかりました。
ーー前作『ベイビー・ドライバー』はアイデア自体は20年近く前からあったとのことでしたが、今回の『ラストナイト・イン・ソーホー』は同じように実現までに時間がかかったようですね。
ライト:今回も同じような感じで、10年以上前から映画そのままのストーリーが頭の中にありました。ただ脚本には落とし込んでいなかった。書きはじめなきゃとは思っていたんですが、その間に『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』と『ベイビー・ドライバー』を作っていたし、他の企画も進めていましたから。
ーー何か脚本執筆作業に着手するきっかけがあったんでしょうか?
ライト:最初にプロデューサーと話をした後に、ルーシー・パーディーという素晴らしいリサーチャーの方に、ソーホーの歴史やいろんな側面を調べてもらったんです。リサーチ結果としてものすごい量のファイルを彼女が送ってきてくれて、それを一つずつ見ながら、これはもう書き始めなきゃと思っていた中で、大きなきっかけになったのが、今回共同で脚本を手がけたクリスティ・ウィルソン=ケアンズとの出会いでした。
ーー『1917 命をかけた伝令』で共同脚本を務め、監督のサム・メンデスとともに第92回アカデミー賞脚本賞にもノミネートされた脚本家ですね。
ライト:彼女とは仕事をしようとして出会ったわけではなくて、まさにそのサム・メンデスから「君たちは絶対友達になると思う」と言われて紹介されたんです。彼女は当時ソーホーでストリップクラブの上に住んでいて、今回映画にも登場するバーで5年くらいバーテンダーをやっていたという話を聞きました。「それは面白い!」と思って、僕の方から「実はこういう企画を暖めていて……」と相談して、具体的に進むことになりました。もちろん彼女にそういう経験があったことも大きかったのですが、それが彼女と一緒に仕事したいと思った理由ではありませんでした。彼女が本当に素晴らしい脚本家だから一緒に仕事をしたいと思ったんです。もしかしたら多くの人は奇妙に感じるかもしれませんが、僕自身、この映画はものすごくパーソナルなものなんです。それはクリスティにとっても同じで、僕とクリスティの人生経験が反映された作品になっています。彼女と一緒に過ごす時間はとてもいいものでしたし、そうやって自分たちの経験を作品に落とし込むことができたのはいい経験でした。