バカリズム流「ヤンキー系バトル漫画」の異色作!? 『地獄の花園』に施された周到な仕掛け

『地獄の花園』にみるバカリズムの作家性

 きうちかずひろの『ビー・バップ・ハイスクール』、吉田聡の『湘南爆走族』、森田まさのりの『ろくでなしBLUES』、高橋ヒロシの『クローズ』……いつの時代も、ヤンキー漫画は人気だ。きっと、それぞれの世代にとっての「ヤンキー漫画」が、ひとつやふたつはあるだろう(今ならさしずめ、和久井健の『東京卍リベンジャーズ』?)。校内における派閥争いに端を発し、やがては他校や地域を巻き込みながら、果ては全国を射程していくような物語。それはもはや、「ヤンキー系バトル漫画」という日本独自のジャンルを築き上げているといっても過言ではないだろう。それは、映画の世界でも同じである。上記の作品のいずれもが実写映画化され、その多くが好評を博してきたのだから。そんな「ヤンキー系バトル漫画」の系譜に連なりながらも、明らかに異色の一本となった映画――それが、バカリズム脚本の映画『地獄の花園』(監督:関和亮)だ。

「『女性のヤンキーものを書いて欲しい』というオファーを頂き、最初は女子高生のバイオレンスな話を書いていたのですが、もっと非現実でバカバカしくするために関監督に『設定をOLにしませんか?』とご提案したら乗って頂き、そこから関監督の演出でより壮大なバカバカしい映画になりました。」(バカリズム/『地獄の花園』公式サイトのコメントより)

 「女性のヤンキーものを書いて欲しい」というオファーも相当なものだけど、それに対して「設定をOLにしませんか?」と打ち返すバカリズムも、やはり相当なものである。「OL」と言えば、脚本家・バカリズムの原点であり、その後、優れたテレビドラマの脚本作家に授与される「向田邦子賞」までも受賞することになったドラマ『架空OL日記』(読売テレビ・日本テレビ系)が、すぐに思い起こされるだろう。「なるほど、あの感じね」。そう思った方は、しばし待たれたい。バカリズムは、「OL好き」(語弊)である前に、「マンガ大好き芸人」としても知られる――とりわけ、ヤンキー系バトル漫画を愛読する、ガチの漫画ファンなのだ。

 「主人公」というよりも、むしろ「語り手」的な役割で、映画の冒頭から登場する田中直子(永野芽郁)は、一般企業に勤めるごく普通のOLだ。眠い目をこすりながらバスで会社に向かい、更衣室で制服に着替えながら、仲良しの同僚たち(中村ゆりか、伊原六花)と昨日観たドラマの話をするような、ごく普通のOLだ。しかしながら、彼女たちのまわりは、妙に騒がしい。投げ飛ばされた同僚女子が、突然ロッカーに激突したりするのだから。直子のようなカタギのOLとは一線を画する「ヤンキーOLたち」(何それ?)。そう、直子の勤める「株式会社三冨士」は、制服の上から特攻服を着こんだ「ヤンキーOLたち」の諸派閥がしのぎを削る、実にバイオレントな職場なのだ。

 かくして、「狂犬 紫織」(川栄李奈)、「悪魔の朱里」(菜々緒)、「大怪獣 悦子」(大島美幸)をリーダーとする各派閥の「抗争」が、ひとまず落ち着きをみせた頃、ひとりの「転校生」ならぬ「中途採用」のOL、北条蘭(広瀬アリス)が、颯爽と会社に現れる。実は、無敵の「カリスマヤンキー」である彼女は、入社早々から次々とその身に振り掛かってくる火の粉を振り払っているうちに、本人の意思とは裏腹に、またたくまに三冨士OLたちのトップに上り詰めてしまうのだ。カタギのOLでありながら、いつしかそんな蘭と交流を深めていく直子。しかし、そんな蘭と直子の前に、今度は「他校」ならぬ「他社」のヤンキーOLたちが、次々と戦いを挑んできて……やがて、蘭の存在は、一部上場企業「トムスン」の総務部を仕切る最強OL「魔王 赤城」(遠藤憲一)の知るところとなるのだった。

 とまあ、「学園」を「会社」に移しながら、「ヤンキー系バトル漫画」の王道とも言える展開を小気味よくみせていく『地獄の花園』のストーリー。それにしても、「これってあれじゃん! 主人公の登場で、これまでの勢力図が一気に変わっちゃう、ヤンキー漫画の王道パターンじゃん!」などなど、目の前で展開する光景を逐一「ヤンキー漫画」あるあるとして解説してくれる直子は、果たして何者なのだろうか。「ヤンキー漫画」について、妙に詳しいんですけど。

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