『おかえりモネ』心に残る神回 西島秀俊×内野聖陽の言葉が今を生きる私たちに突き刺さる

『おかえりモネ』 心に残る神回

 「初めて会った気がしない」なんて顔を見合わせて笑う朝岡(西島秀俊)と耕治(内野聖陽)が尊い。初対面なのにも関わらず、すでに仲良しな雰囲気のせいでもう一つのドラマが思い浮かんで仕方ない『おかえりモネ』(NHK総合)第69話。ついに『きのう何食べた?』(テレビ東京ほか)で共演した2人が顔を合わせた意味でも神回だったが、それ以上に全編通して展開された2人の会話劇の内容が非常に深く心に残る神回だった。

 テレビ局に入るやいなや、いつも娘の百音(清原果耶)がお世話になっている朝岡を見つけると嬉しそうに近づいていく耕治。朝岡を悩ませていた故障中の竜巻を作る装置を一緒に運ぶだけに止まらず、なんと自分でも直し始める。

 彼の父、百音の祖父にあたる龍己(藤竜也)は何でも自らの手で作り、直す人だった。それが息子の自分にも染み付いているのだ。耕治はそう話しながら、一緒に東京に来ていたのに水揚げの様子が気になってすぐに帰った祖父のことを朝岡に話す。「海から離れられないんだと思う」と笑う耕治の、“離れられない”という言葉に反応した朝岡の瞳が揺れる。

「離れられないものなのでしょうか。海というか土地というか……」

 “土地に暮らすこととはどういうことなのか”、そのことについてこの頃考えていた朝岡は神妙な面持ちで耕治に聞く。彼は今、いや恐らく長い間気象予報士として答えの出ない問題にハマっていたのだろう。そんな様子を、出社したものの雰囲気を察して物陰で様子をうかがっていた百音と、なぜかその場に居合わせている社長(井上順)が聞いていた。

 8年前、緊急報道で記録的大雨に対して石音町に最大級の警告をしていた朝岡。しかし土石流によって集落は埋まり、犠牲者も出てしまった。暗い部屋で呆然とする朝岡の表情にチカチカとカラーライトが当たる演出は、さながらイタリアンホラー映画のような演出だ。そして現地に向かい、予想をはるかに超えた被害を目の当たりにする。生きた屍のように、うなだれてしまった彼。前話では、再び石音町が豪雨に襲われるも、その8年前の教訓が活かされて犠牲者が出ることもなく無事に住民が避難できた。しかし、それだけでは足りない。ドラマの枠を超えた現実でも問題となっている、災害多発地域とそこに住む人々の暮らしについて、朝岡は悩み続けていた。

 「あんたのせいじゃないよ」と言う耕治に対し、「ええ、自分のせいだって青臭いことは言いません。私はあの時点での最善を尽くした、そう言えないとしたらそれは無責任です。ただ……」そこまで言うと、涙がこみあげてきた朝岡。

「何度も繰り返すんです。ようやく元に戻ってきたところで、また災害が起きる。私は白状なので、何も好んでそんな土地に留まることはない、離れればいいじゃないかと、ノスタルジーなんて命には代えられないだろうと思うんです。でも命を引き合いに出して、大事なものを捨てろなんて迫るのは、部外者の暴力でしょう」

 彼は、両親が転勤族だったので地元を持たず、そのため土地を大事にする者たちに完全に気持ちを寄り添うことができないし、その考えを理解することができない。それでも、石音町に足を運んだことで現地の人の努力も知っている。だから社会部の沢渡(玉置玲央)が「土地を離れるしかない」と言ったことについて、同意はしなかったものの、やはりどう考えたらいいのかわからなかったのだ。

 思いがけず、本心をぶつけられた耕治は「まいったなあ、アハハ」と笑いながら、それでも彼の強い気持ちに応えるように話し出す。

「俺も思っていましたよ、離れたいって。自然なんか本当思い通りにならないしね。でも、思っていても、離れられない。俺が言う資格はないかもしれないけど、親父なんかを見ていると別に土地にだけ根付いているわけでもないんだなあと時々思う。人、なのかなあ。わからない。そこに生きてきた人たちの、顔も声も知らない、何十年何百年と海を育ててきてくれた人たちの愛情というか。その想いに向き合わなきゃって、厄介な親子の情みたいなものが染み付いているんでしょうね」

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