『バケモノの子』表裏一体の舞台とキャラクター 熊徹から九太へ受け継がれる“胸の中の剣”

『バケモノの子』受け継がれる“胸の中の剣”

 細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』がいよいよ7月16日に公開となる。その公開を記念し、7月9日には累計興行収入58億5千万を記録した細田監督最大のヒット作『バケモノの子』が日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送。今回は、『バケモノの子』の内容を振り返りつつ、劇中で重要なワード「胸の中の剣」についても紐解いていく。

対比構造でありつつ、表裏一体で描かれる舞台とキャラクターたち

 『バケモノの子』は、渋谷とその裏にあるバケモノたちの街・渋天街という、リンクした表裏の街を舞台に描かれる。渋天街は、ブラジルのファベーラやモロッコのマラケシュのイメージがベース。加えて、センター街ゲートと渋天街を同じ位置にしたり、代々木第一体育館と闘技場を相対させたりと、渋天街が現実の渋谷とリンクした“裏の渋谷”として設計されている。2016年に発行された『シアターカルチャーマガジン「T.」【ティー】34号』でのインタビュー内で細田監督は、表と裏の世界があることが面白いと述べ、「単なる“ファンタジー世界に生きて戻りし物語”ということではなく、行った先の世界は現実の合わせ鏡みたいになっていて、行った異世界にも表裏一体の意味がある」と語っている。

 そして、舞台とリンクするように、物語に登場するキャラクターたちも、一見すると対照的に見えるが表裏一体で描かれている。例えば、物語を通して正反対に描かれる九太と一郎彦。九太は本来いるはずのないバケモノたちの世界でも自ら居場所を作っていったが、同じく人間の子だった一郎彦は疎外感を感じて心を閉じてしまった。しかし、疎外感を感じていたのは九太も同じ。最初は多々良にも、渋天街の住人にも帰れと言われる。その後、熊徹をはじめとした周りのバケモノたちにも本音を語り、時にはぶつかり、周りもそれに呼応するかのように本気で接していったからこそ、次第に認められていった。

 一方、一郎彦は、誰もが認める人格者で武芸も一流の・猪王山に育てられる。彼が眩しすぎる存在だったが故に、一郎彦は心の闇を深くしていった。しかし、そうして闇に飲み込まれてしまった一郎彦は、九太にとっての「ありえた姿」。九太もまた、一郎彦に刺された熊徹を見て闇に飲まれかける。物語の終盤、九太は「俺と一郎彦は同じで、俺は間違えたら一郎彦みたいになっていたかもしれない。そうならずに済んだのは、俺を育ててくれたたくさんの人たちのお陰だよ」と語っていた。一郎彦も、自分がたった一人ではなく、人間とバケモノであっても心配してくれる家族がいることに、闇から解放されることでやっと気付く。自身の心の有り様次第でも周りは変化していくという、対比のキャラクター同士だけでない、人と人との関係性もまた“合わせ鏡”であることが描かれたシーンだ。

 本作のパンフレット内で、プロデューサーでスタジオ地図代表取締役でもある齋藤優一郎は、九太や一郎彦が抱える闇は、アイデンティティの形成期に多くの人が抱えるような、誰しもが通ることだと語っている。齋藤は、こうした悩みや葛藤について「その闇を悪として描くのではなく、逆にその成長のプロセスである闇を肯定したい。(中略)何よりもこの映画を見てくれた子どもたちが、自分の成長や未来を親や大人、そして社会が祝福してくれている。そんな風に感じてくれるといいな、と思います」と、本作の根底に流れる信念を語っている。

 一見すると対照的なキャラクターが、「立場が違っていたら自分もそうだったのかもしれない」「根っこは同じ」というように描かれることで互いに強調し合う。本作は、善か悪かという二元論では語れない深みのあるキャラクター描写が、共感性を高める構造に。それは、誰しもが抱えているものとして闇をも需要し、それを包み込むように描くスタッフの想いあってこそのストーリーテリングだ。

「師匠であり弟子」互いに教え合い、学び合う師弟関係

 本作で表裏一体といえば、九太と熊徹の師弟関係も同様だ。二人は互いに教え合い、学び合うという少し不思議な師弟関係。熊徹が剣術や攻撃を、九太が相手の動きを読む術を教える。熊徹は師匠がおらず自分一人で強くなってしまったが故に、九太にどう教えたらいいか分からず、だらしなさからも「師匠なら師匠らしくしろ」と九太に言われてしまう。

 出会った頃からこういった口論ばかりしていることもあり、誰もがイメージする師弟とはかなり異なる関係だ。しかし、誰かに何かを教えることで、それが整理され、研ぎ澄まされていくというのは、学校の勉強や仕事の場でも間々ある。17歳になった九太と組み手をする熊徹を見ていた宗師と猪王山は、熊徹の技が洗練されていることに気付く。教えることで気付かされることもあり、教わることもあるという、互いに師匠で互いに弟子。本音でぶつかり合える二人だからこその、正に表裏一体の師弟関係だ。



インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる