『クルエラ』新時代のヴィランが生まれるまで キャリアとともに探るエマ・ストーンの魅力
情熱的挑発の孤独
エマ・ストーンが強い印象を残す身振りとして、歩きの美しさがある。背を向けて向こう側に歩いていく身振りや、こちら側に向かってくる身振り。この歩きの美しさをもっとも審美的に捉えたのが傑作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督/2014年)だろう。人がフレーム内を入れ替わり立ち替わる長回しで撮られているため、エマ・ストーンのフレームイン/アウトの美しさが、より際立っている。あるいは、『ラ・ラ・ランド』(デミアン・チャゼル監督/2016年)での、原色の衣装を着たミア(エマ・ストーン)を中心にする4人の女性が、路上で衣装をはためかせながら、こちら側に向かってくるシーンを思い出してもよいだろう。エマ・ストーンの歩きが、挑発の身振りとして昇華される美しいシーンだ。
また、アーケイド・ファイアのウィル・バトラーのソロ、「ANNA」のPVでは、エマ・ストーンのダンスの情熱的で挑発的な身振りが最大限に披露されている。この傑作PVは、エマ・ストーンが敬愛してやまないローレン・バコールとマリリン・モンローが共演した名作『紳士は金髪がお好き』(ハワード・ホークス監督/1953年)のミュージカルシーンを彷彿とさせる。
『ラ・ラ・ランド』では、セブ(ライアン・ゴズリング)とミアが互いに挑発の言葉を歌にする。初デートの際、「恋の気配もないなんて/ステキな夜がもったいない」と恋人たちはお互いに向けて歌い合う。ここでは、挑発と誘惑を歌にして返答し合う二人が、スクリーンに恋の始まりを告げている。レストランのスピーカーからふいに流れてきたセブのピアノのフレーズに導かれ、ミアが約束の映画館に向かうシーンの、運命的な引力に引き寄せられる情熱的な身振りと美しい導線。『ラ・ラ・ランド』には、物語と演出の設計上において、エマ・ストーンの情熱的挑発の身振りが見事に表象されている。しかし、ミアは女優を目指す一人の独立した女性として、その情熱の裏側に孤独の影を纏っている。ミアはオーディションで祈るように歌う。「どうか乾杯を。破れた心に。どうか乾杯を。夢見る愚か者に。どうか乾杯を。心の痛みに」
復讐とは悲しみのこと。そう定義するクルエラの孤独。挑発的な身振りに孤独であることの大きな影を纏うクルエラというキャラクターこそ、エマ・ストーンのこれまでのキャリアにおける集大成にふさわしい。エマ・ストーンが人生の一本に挙げる『街の灯』(1931年)を作ったチャールズ・チャップリンの言葉を借りるなら、「人生はクロースアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」ということなのだろう。ゴージャスでセンセーショナルなクルエラの肖像には、エマ・ストーンの「情熱的挑発の孤独」の魂が宿っている。
■宮代大嗣(maplecat-eve)
映画批評。ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、キネマ旬報、松本俊夫特集パンフレットに論評を寄稿。Twitter/ブログ
■公開・配信情報
『クルエラ』
映画館、ディズニープラス プレミア アクセスにて公開中
※プレミアアクセスは追加支払いが必要
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:エマ・ストーン、エマ・トンプソン、マーク・ストロング
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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